アリは世界に何匹いる?
2022年の推計では約2京匹。重さを合わせると、野生の鳥と哺乳類の合計を上回ります。
2京匹
公園のベンチに座って足もとを眺めていると、たいていどこかでアリが列をつくっています。庭先でも、道ばたのすき間でも、夏の山道でも、アリを一匹も見かけない日のほうが珍しいくらいです。
アリは南極大陸を除くほぼすべての大陸にすんでいて、名前のついた種だけでも1万3000種を超えます。では、地球上のアリを全部数えたら、いったい何匹になるのでしょうか。あまりに途方もない問いに、正面から挑んだ研究者たちがいます。
489の研究を束ねた「アリの国勢調査」
2022年、香港大学のパトリック・シュルトハイスさんやベノワ・ゲナールさんらの研究チームは、アメリカの科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に、世界のアリの数を見積もった論文を発表しました。
チームが使ったのは、世界各地の研究者がこれまでに積み重ねてきた調査の記録です。地面に埋めたコップ型のわなに落ちたアリや、ひとすくいの落ち葉の中にいたアリの数など、すべての大陸のさまざまな環境で行われた489件の研究からデータを集め、場所ごとのアリの密度を地球全体に当てはめていきました。
その結果、地表で暮らすアリだけで少なくとも3000兆匹。木の上にいるアリや、巣の中にいて調査では見えないアリまで含めると、全部でおよそ2京匹と推定されました。1京は1万兆ですから、まさに天文学的な数です。世界の人口を約80億人とすると、1人あたり250万匹ほどのアリがいる計算になります。
「勘」から「データ」へ
アリの数を見積もろうとした人は、以前にもいました。アリ研究の第一人者として知られるバート・ヘルドブラーさんとE・O・ウィルソンさんは、地球の昆虫はおよそ100京匹で、その1%ほどがアリだと仮定し、アリは約1京匹いるのではないかと考えました。のちに、1000兆〜1京匹という幅のある数字にも修正しています。
ただ、もとになった昆虫の数は、イングランド南東部で調べた昆虫の密度を、そのまま地球の陸地全体に広げたものでした。その計算をした本人さえ「疑わしい作業」と書いていたほどです。2022年の研究は、世界中の実際の調査データをもとにした、初めての本格的な推計だったのです。
重さでくらべると
数だけでなく、重さも見積もられました。534種のアリの体重を調べたところ、働きアリ1匹の乾燥重量は平均1.24ミリグラム。小さいものは0.004ミリグラム、大きいものは57ミリグラムと、種によって大きな差があります。
これを2京匹ぶん合わせると、炭素に換算して約1200万トン。野生の鳥類と野生の哺乳類をすべて合わせた重さを上回る量です。
一方で、「世界のアリをすべて合わせると、人類全体と同じ重さになる」という話を聞いたことがあるかもしれません。こちらは、今回の推計では人類の重さの約20%にとどまりました。論文でも、その説を裏づける確かな証拠は乏しいと指摘しています。
熱帯に多く、まだ空白も
アリはどこにでも同じようにいるわけではありません。地表のアリは熱帯や亜熱帯に集中していて、環境によって密度に6倍ほどの差がありました。落ち葉の中にすむアリは森林に多く、地面を歩き回って餌を探すアリは、意外にも乾燥した地域で最も多かったといいます。
ただし、アフリカの大部分や北アジアなどはデータが少なく、研究チーム自身も、地域や環境によって知識に大きな空白があると認めています。2京匹という数字は、控えめに見積もった値です。足もとの小さな隣人たちの本当の数は、もっと多いのかもしれません。