ハダカデバネズミは年を取らない?
年を重ねても死ぬ確率がほぼ上がらない珍しい動物ですが、不死身ではなく、がんになった例もあります。
37年
ピンク色のしわしわの体に、毛はほとんどなし。口の外には大きな前歯が突き出ている。ハダカデバネズミは、一度見たら忘れられない姿をしたネズミの仲間です。「ハダカ」は毛がないこと、「デバ」は出っ歯のことを表しています。
見た目のインパクトだけでなく、この動物はいま、老化を研究する科学者たちから大きな注目を集めています。「年を取らない動物」とまでいわれることがあるのです。それは、どこまで本当なのでしょうか。
地下で暮らす、女王のいる群れ
ハダカデバネズミは、ケニアやエチオピア、ソマリアなど、アフリカ東部の乾燥した土地の地下にトンネルを掘って暮らしています。体長は7〜8センチほど、体重は30〜40グラムほどで、ハツカネズミより少し大きいくらいです。
暮らし方も変わっています。群れは平均70匹ほどで、300匹近い大きな群れも見つかっています。その中で子どもを産むのは、たった1匹の女王だけ。ほかの仲間はトンネルを掘ったり、食べものの根やイモを運んだり、子守をしたりして群れを支えます。アリやハチのような社会をもつ、珍しい哺乳類なのです。
ネズミなのに37年以上生きる
ハダカデバネズミが注目される最大の理由は、その寿命です。同じくらいの大きさのネズミの仲間は、飼育下でも数年ほどで寿命を迎えます。ところがハダカデバネズミは、飼育下で37年以上生きた記録があり、齧歯類(ネズミの仲間)でいちばん長生きな動物とされています。
しかも、長く生きるだけではありません。年を取った個体と若い個体を比べても、心臓の働きや筋肉の量、子どもを産む力などに、ほとんど違いが見られないといいます。女王は高齢になっても子どもを産み続けます。
体のしくみも驚くほどタフです。仲間がぎっしり集まる地下の巣は、酸素が少なくなりがちな場所。2017年に発表された実験では、酸素のまったくない空気の中に18分間置かれたあとでも、ふつうの空気に戻すとすっかり回復しました。
「死にやすさ」が年齢で変わらない
2018年、アメリカの研究者ロシェル・バッフェンスタインさんらは、30年以上にわたって記録された3299匹のハダカデバネズミのデータを分析し、その結果を科学誌『eLife』に発表しました。
ふつう、動物は年を取るほど死にやすくなります。人間の場合、30歳を過ぎると、死亡する確率はおよそ8年ごとに2倍になるといわれます。これは19世紀の研究者の名をとって「ゴンペルツの法則」と呼ばれ、マウスやウマなど多くの哺乳類に当てはまります。
ところがハダカデバネズミでは、大人になってからの1日あたりの死亡確率がおよそ1万分の1のまま、年を取ってもほとんど上がらなかったのです。研究チームは、この動物を「老化しない哺乳類」と呼びました。
「不老不死」ではない
ただし、「年を取らない」といっても、死なないわけではありません。1日に1万分の1という死亡確率は、小さくてもゼロではないのです。また、データの読み方をめぐっては、「老化しない」と結論づけるのは早すぎるという反論も出されました。
がんになりにくいことでも知られていますが、まったくならないわけでもありません。2016年には、アメリカの動物園で飼育されていた20歳と22歳の個体に、がんが見つかったと報告されています。
それでも、老化やがんに強い秘密を探る研究は世界中で続いています。日本では熊本大学の三浦恭子さんらのグループが研究に取り組み、2023年には、ハダカデバネズミでは老化した細胞が自ら死んで取り除かれやすい仕組みがあることを発表しました。体に老化細胞がたまりにくいことが、老化やがんへの強さにつながっている可能性があるといいます。老いないのではなく、老いにくい。それが、いまわかっているハダカデバネズミの姿です。