世界一高い山はエベレストじゃない?
海面から測ればエベレスト。でも海底から測ればマウナケア、地球の中心からならチンボラソが一番です。
10,200m
世界一高い山はどこかと聞かれたら、ほとんどの人がエベレストと答えるでしょう。もちろん、それは間違いではありません。ただし、そこには「海面から測れば」という、ふだんは口にしない条件がついています。
山の高さを測るには、どこかに物差しの「ゼロ」を置かなければなりません。そのゼロを海面以外の場所に置いてみると、まったく別の山が世界一の座に名乗りを上げます。
海面から測った王者、エベレスト
ヒマラヤ山脈にそびえるエベレストが世界最高峰だと確かめられたのは、19世紀半ばのことです。当時イギリスが進めていたインドの測量で、遠く離れた観測点から角度を測り、三角法で高さが計算されました。この山は最初「ピークXV(15番峰)」という番号で呼ばれ、1856年に約2万9002フィートと発表されています。計算結果はちょうど2万9000フィートだったものの、切りのいい数字では概算だと思われかねないため、2フィート足して発表したという逸話も伝わっています。
その後、長く使われてきたのは1950年代の測量による8848メートルという値でした。2020年には中国とネパールが共同で測り直し、8848.86メートルという新しい標高を発表しています。チベットではチョモランマ、ネパールではサガルマータと呼ばれるこの山が、海面からの高さでは文句なしの世界一です。
海の底から測れば、マウナケア
では、山の高さを麓から測ったらどうでしょう。
エベレストは、もともと標高の高いチベット高原やヒマラヤの山並みの上に乗っています。一方、ハワイ島のマウナケアは、標高こそ約4207メートルですが、その裾野は太平洋の深い海底にまで続いています。海に沈んだ部分を含めて、裾野から山頂までを測ると、高さはおよそ1万200メートル。エベレストの標高を1000メートル以上も上回ります。
私たちが目にしているマウナケアは、いわば氷山の一角です。山体の半分以上は海の中に隠れているのです。山頂付近は空気が澄んで乾いているため、日本のすばる望遠鏡をはじめ、世界各国の天文台が集まる場所としても知られています。
地球の中心から測れば、チンボラソ
物差しのゼロを、思いきって地球の中心に置いてみることもできます。山頂が宇宙に最も近い山はどこか、という問いです。
ここで効いてくるのが、地球の形です。地球は完全な球ではなく、自転の勢いで赤道のあたりが少しふくらんだ形をしています。中心から赤道までの距離は、中心から北極までより20キロメートルほど長いのです。
その恩恵をいちばん受けているのが、南米エクアドルのチンボラソ山です。標高は約6263メートルと、エベレストより2500メートル以上低いのですが、赤道のすぐ南に位置しているため、ふくらんだ地球の「上」に立っています。その結果、山頂は地球の中心から約6384キロメートル。北緯28度付近にあるエベレストの山頂よりも、約2キロメートル遠い計算になります。
実はチンボラソは、ヒマラヤの測量が進む前、世界一高い山だと考えられていた時代もありました。物差しを変えると、かつての王者がもう一度表彰台に戻ってくるのは、なんとも味わい深い話です。
「高い」とは、何と比べて高いのか
こうして並べてみると、「世界一高い山」は問いの立て方しだいで答えが変わることがわかります。海面からならエベレスト、裾野からならマウナケア、地球の中心からならチンボラソ。どれも正しく、どれも世界一です。
ふだん「標高」として使われている海面基準は、地図や登山には便利な約束ごとです。けれども、それはあくまで人間が決めたひとつの物差しにすぎません。当たり前だと思っていた数字の裏に、どんな前提が隠れているのか。そこに目を向けると、見慣れた地球の姿が少し違って見えてきます。