世界一長い川は?
一般にはアフリカのナイル川(約6650km)。ただしアマゾン川の方が長いとする説もあります。
世界一長い川は、と聞かれたら、地理の授業を思い出して「ナイル川」と答える人が多いでしょう。地図帳や百科事典の多くも、たしかにそう書いています。
ところが、この答えには長年のライバルがいます。南米のアマゾン川です。両者の差はわずか数百キロメートル。そして、その差は「川の長さをどう測るか」という、意外なほど根深い問題の中で揺れ動いているのです。
教科書の王者、ナイル川
ナイル川は、アフリカ大陸の北東部を南から北へ流れ、地中海に注ぐ大河です。一般に知られている長さは約6650キロメートル。流域は10か国以上にまたがり、白ナイルと青ナイルという二つの大きな流れが、スーダンの首都ハルツームで合流します。
白ナイルの源流をたどると、ビクトリア湖に流れ込む川のさらに上流、ルワンダやブルンジの山地にまでさかのぼるとされます。そこから砂漠の国エジプトを抜けて海に出るまで、その旅はとてつもなく長いものです。
雨のほとんど降らないエジプトで、古代文明が栄えたのはこの川のおかげでした。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスが「エジプトはナイルの賜物」と記したとされるのも、うなずける話です。
川の長さは、どこから測る?
一方のアマゾン川は、一般に約6400キロメートルとされ、ナイル川に次ぐ2位の扱いです。けれども、この順位は決して盤石ではありません。
川の長さを測るのは、実はとても難しい作業です。まず、どこを「始まり」とするか。大河にはたくさんの支流があり、どの細い流れを源流とみなすかで、長さは数百キロメートル単位で変わります。次に、どこを「終わり」とするか。河口が広い入り江や複雑な三角州になっている場合、どこで川が海になるのかに明確な線はありません。
さらに、川は曲がりくねっています。地図を細かく見るほど、小さな蛇行まで拾うことになり、測った長さは伸びていきます。しかも川筋そのものが、洪水などで年々少しずつ変わります。川の長さは、測り方の約束ごとによって変わる数字なのです。
アマゾン川の逆襲
この曖昧さをついて、アマゾン川こそ世界一だと主張する研究者もいます。
2007年には、ブラジルとペルーの研究機関などのチームが、アマゾン川の源流をペルー南部のアンデス山中に求め、河口の取り方も見直したうえで、長さを約6992キロメートルと発表しました。同じチームはナイル川を約6853キロメートルとしており、この測り方ならアマゾン川の方が長いことになります。
ただし、この結果が世界中で受け入れられたわけではありません。逆に、アマゾン川の源流は別の支流にあり、その場合はむしろ短くなるという研究も出ています。いまのところ、多くの辞典や地理の資料はナイル川を1位としていますが、決着がついたとはいえず、諸説ありますというのが正直なところです。
長さでは互角、水の量では圧勝
長さでは互角の勝負を続ける二つの川ですが、運ぶ水の量で比べると、話はまったく違ってきます。
アマゾン川が海に注ぐ水の量は、平均で毎秒約20万立方メートル。世界中の川が海へ流し込む水のおよそ5分の1にあたるとされ、2位以下の大河をいくつも束ねてようやく肩を並べるほどです。広大な熱帯雨林に降る大量の雨を集めているからこそ、これほどの水量になるのです。
長さのナイル、水量のアマゾン。どちらを「世界一の川」と呼ぶかは、何を物差しにするかしだいです。数百キロメートルの差をめぐる論争は、私たちが当たり前に使っている「長さ」という数字が、実は人間の決めごとの上に成り立っていることを教えてくれます。