世界一大きな結晶は?
メキシコのナイカ鉱山で見つかった石膏の結晶が有名で、長さは11メートルを超えます。
11.4m
結晶と聞いて思い浮かべるのは、雪の結晶や、塩や砂糖の小さな粒、あるいは手のひらにのるような水晶かもしれません。どれも、ルーペや指先で眺めるような小さなものです。
ところが、メキシコの地下には、人間がその上を歩けるほど巨大な結晶が、何本も林のように突き出した洞窟があります。電柱にも負けないほどの太さと長さをもつ、白く透きとおった柱。それはすべて、一つひとつが天然の結晶なのです。
鉱山の地下300メートルで
その場所は、メキシコ北部チワワ州のナイカ鉱山です。鉛や亜鉛、銀を掘り出すこの鉱山で、2000年4月、新しいトンネルを掘っていた作業員たちが、地下約300メートルの深さで一つの空洞に行き当たりました。
中をのぞいた人々の目に飛び込んできたのは、洞窟の床から天井まで、縦横に交差して伸びる巨大な柱でした。この空洞は、のちに「結晶の洞窟」と呼ばれるようになります。いちばん大きな結晶は、長さが約11.4メートル、重さは推定12トン。大型バスとほぼ同じ長さの結晶が、一つの塊として育っていたのです。
結晶の正体は、石膏(せっこう)です。学校の工作で使う石膏や、建物の壁に使われる石膏ボードと同じ物質で、透明な結晶になったものは「セレナイト(透石膏)」と呼ばれます。石膏は爪で傷がつくほどやわらかい鉱物ですが、ナイカではそれが、人の背丈の何倍もの大きさにまで成長していました。
灼熱の「結晶の宮殿」
この洞窟は、見た目こそ氷の宮殿のようですが、実際は灼熱の世界です。気温は最高で58℃ほど、湿度は90%を超えます。空気が体温より熱く、汗も蒸発しにくいため、体を冷やすことができません。何の装備もなしに入れば、とどまっていられるのは10分ほどが限度だとされています。
そのため、調査に訪れた研究者たちは、氷で冷やす特製の冷却服や呼吸装置を身につけて洞窟に入りました。それでも活動できるのは、一度に30分ほどだったといいます。
50万年以上かけて育った
これほど大きな結晶が育った理由は、地下深くの特別な条件にあります。
ナイカの地下にはマグマだまりがあり、その熱で温められた地下水には、石膏のもとになる成分がたっぷりと溶け込んでいました。この熱水が長いあいだ洞窟を満たし、しかもその温度が、50℃台の半ばから後半あたりでほとんど変わらずに保たれていたと考えられています。この温度では、熱水に溶けた成分が、ほんの少しずつしか結晶になりません。そのため結晶の芽がたくさんできることはなく、限られた数の結晶だけが、途方もなく長い時間をかけて大きくなっていったのです。
成長の速さはきわめて遅く、結晶ができるまでには少なくとも50万年かかったとされます。成長の速さを実験で見積もった研究では、最大級の結晶が今の大きさになるには、およそ100万年かかったと計算されています。
人間がこの洞窟に入れたのは、鉱山が採掘のために地下水をくみ上げ、水位を下げていたからでした。2015年10月に採掘が止まると、ポンプも止められ、洞窟は再び水に沈みました。今は誰も入ることができませんが、熱い水の中で、結晶はふたたびゆっくりと成長を始めているのかもしれません。
ちなみに、**「世界一大きな結晶」**の称号には、ほかの候補もあります。マダガスカルでは、長さ18メートル、重さ380トンとされる緑柱石(ベリル)の結晶の記録が残っています。ただし詳しい資料は少なく、実際に調査され、写真にも記録されている巨大結晶としては、ナイカの結晶が世界最大級の存在といえるでしょう。