世界一深い場所は?
答え
太平洋のマリアナ海溝にある「チャレンジャー海淵」。深さは1万900メートルあまりです。
10,920m
地球でいちばん高い場所がエベレストの山頂だということは、多くの人が知っています。では、いちばん深い場所はどこでしょう。
答えは、西太平洋のマリアナ諸島に沿って弧を描くように延びる、マリアナ海溝の底にあります。グアム島の南西に位置するその最深部は「チャレンジャー海淵」と呼ばれ、深さはおよそ1万900メートルあまり。光も届かない暗闇の世界が、海面の下に1万メートル以上も続いているのです。
「1万920メートル」は確定ではない
チャレンジャー海淵の深さとして、日本でよく見かけるのは約1万920メートルという数字です。これは1984年、海上保安庁の測量船「拓洋」による測定値として知られています。
ただし、この深さは測るたびに少しずつ違う値が出てきました。1万911メートル、1万925メートル、1万935メートル、さらに1万980メートルを超える値まで、調査の時期や方法によって数十メートルの幅があります。
これは測り方が雑だからではありません。海の深さは多くの場合、船から音を発してその反響が返るまでの時間から求めます。ところが音の速さは、水温や塩分、水圧によって変わります。1万メートルもの水の層を往復する音の速さを正確に見積もるのは、とても難しいのです。潜水艇の水圧計から深さを割り出す方法もありますが、こちらにも補正が必要です。世界一深い場所の正確な深さは、いまも数十メートルの範囲で諸説あります。
エベレストを沈めてみると
1万メートルという深さを、陸の高さと比べてみましょう。
エベレストの標高は約8849メートル。この山を根元からそっくりチャレンジャー海淵に沈めたとしても、山頂は海面から2000メートル以上も下にあります。富士山なら、2つ積み重ねても、まだ3000メートル以上足りません。
なぜこれほど深い溝ができたのでしょうか。マリアナ海溝は、太平洋の海底をつくる重いプレートが、別のプレートの下へと沈み込んでいく境目にあたります。冷えて重くなった古い海底が、地球の内部へ向かって折れ曲がるように潜り込むため、その境目に深く鋭い谷が刻まれるのです。
底にたどり着いた人々
この暗い海底に、人類が初めて到達したのは1960年のことです。スイスの科学者ジャック・ピカールと、アメリカ海軍のドン・ウォルシュが、潜水艇「トリエステ号」に乗り込み、数時間かけて海底へ降りていきました。底にとどまったのは20分ほど。舞い上がった泥で視界はほとんどきかなかったといいます。
次に人が訪れたのは、それから半世紀以上たった2012年。映画監督のジェームズ・キャメロンが、自ら設計に関わった1人乗りの潜水艇で単独潜航に成功しました。2019年には探検家のヴィクター・ヴェスコヴォが繰り返し潜航できる潜水艇で到達し、その後は科学者などを乗せた潜航も行われるようになりました。それでも、ここを訪れた人の数は、宇宙へ行った人の数よりずっと少ないままです。
指先に1トンの重み
深海への挑戦を阻んできた最大の壁は、水圧です。
水は10メートル深くなるごとに、およそ1気圧ずつ圧力が増していきます。チャレンジャー海淵の底では、その圧力は1000気圧を超えます。1平方センチメートル、つまり指先ほどの面積に、1トン以上の重さがのしかかっている計算です。
それでも、この極限の世界にも生き物はいます。海溝の底では、ヨコエビの仲間などの小さな生き物が見つかっています。私たちには想像もつかない圧力の中で、彼らは静かに暮らしているのです。