タグから探す

    ヒトデには脳がない?

    はい。脳の代わりに口のまわりの神経の輪と、腕に沿った神経で体を動かしています。

    磯の岩場や水族館のタッチプールで、星の形をしたヒトデを見かけることがあります。じっとしているように見えて、裏返せば無数の小さな足をうごめかせ、ちゃんと行きたい方向へ進んでいきます。

    ところが、このヒトデには脳がありません。見たり、においをかいだり、獲物に向かって進んだりしているのに、それをまとめる司令塔が見当たらないのです。では、ヒトデはどうやって体を動かしているのでしょうか。

    司令塔のない神経

    ヒトデはウニやナマコと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間で、世界に1900種ほどが知られています。体の裏側の真ん中には口があり、その口をぐるりと取り囲むように、神経の輪が走っています。そこから5本の腕それぞれに太い神経が1本ずつ伸び、さらに体の表面には網の目のような神経が広がっています。

    黒い流木の上に裏返しに置かれた細長い5本腕のヒトデ。中心の口から各腕の先へ溝が伸びている
    裏返したヒトデ(ルイディア・クラトラタ)。中心の口から5本の腕に向かって溝が伸び、そこに管足が並んでいます。出典: James St. John / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

    この神経の輪は、脳のように情報を一手に引き受ける場所ではありません。腕の神経はそれぞれ、ある程度自分で判断して動いています。たとえば、ある腕が餌のにおいなど魅力的なものを感じ取ると、その腕が一時的に「先頭」になり、ほかの腕を従えて、そちらへ向かって進み始めるのです。決まった頭がないかわりに、その時々でリーダー役の腕が入れ替わるというわけです。

    腕の先の目と、水で動く足

    脳はなくても、ヒトデには感覚器官があります。それぞれの腕の先には「眼点」と呼ばれる目があり、80〜200個ほどの小さな単眼が集まってできています。ものの形をくっきり見るほどの力はありませんが、明るさや大まかな景色の違いを見分けていると考えられています。

    体を動かすしくみも独特です。腕の裏側には「管足(かんそく)」という小さな足がずらりと並んでいて、体の中にめぐらせた水の通り道(水管系)の圧力で伸び縮みします。管足の先は吸盤のように見えますが、実際には粘着性の物質を出して岩などに貼りつき、別の物質を出してはがれるとされています。

    食事の仕方も変わっています。二枚貝などを食べるとき、多くのヒトデは自分の胃を口から外へ押し出し、獲物を包み込んで消化してしまうのです。

    体全体が「頭」だった?

    脳がないどころか、ヒトデには体全体が頭なのではないか、という研究もあります。

    ヒトデの子ども(幼生)は、人間と同じように左右対称の体をしていて、成長の途中で星形に変わります。左右対称の祖先から、どうやって5方向に広がる体ができたのか。これは長いあいだ動物学の大きな謎でした。

    アメリカのスタンフォード大学のローラン・フォルメリさんらの研究チームは、コウモリヒトデの仲間を使って、ほかの動物で「頭」「胴体」「尾」をつくるのに働く遺伝子が、ヒトデの体のどこで働いているかを詳しく調べ、2023年に科学誌『ネイチャー』に発表しました。すると、頭をつくる遺伝子は体の中心と、それぞれの腕の中央の線に沿って働いていて、尾に関係する遺伝子は腕のふちのほうで働いていました。一方、胴体をつくる遺伝子は、体の表面のどこにも見当たらなかったのです。

    フォルメリさんは、ヒトデはまるで胴体をまるごと欠いていて、「海底をはい回る頭」と表現するのがいちばんふさわしいようだと述べています。もちろん、これは遺伝子の働き方から見た一つの解釈で、ヒトデの進化の道のりについては、まだ多くの謎が残されています。

    白い砂の上にいる、赤茶色のいぼが並ぶ緑がかった5本腕のヒトデを上から見た写真
    浅い海の砂の上にいるヒトデ(オレアステル・レティクラトゥス)。体の中心から5本の腕が放射状に伸び、決まった前も後ろもありません。出典: James St. John / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

    腕1本から全身がよみがえる

    ヒトデといえば、再生する力の強さもよく知られています。腕を失っても、時間をかければ新しい腕を生やすことができるのです。

    なかでも驚かされるのが、熱帯の海にすむアオヒトデの仲間です。切り離された腕1本から、残りの体がまるごと再生することがあり、長い腕から小さな腕が生えた姿が彗星のように見えることから、この状態は「コメット(彗星)」と呼ばれています。元の姿に戻るまでには数か月かかるといわれます。

    次はこちらをどうぞ

    1. 動物約4分タコの心臓はいくつある?泳ぐと止まる心臓、銅でできた青い血、考える腕。身近な食材のはずのタコは、調べるほど別の惑星の住人のように見えてきます。
    2. 動物約4分イルカは脳の半分ずつ眠るって本当?海で暮らす哺乳類は、いつ、どうやって眠っているのでしょう。眠りながら泳ぎ、息をするための、驚くべき工夫がありました。
    3. 動物約4分ゴキブリは頭がなくても生きられる?しぶとさの代名詞のようにいわれるゴキブリ。「頭を失っても生きている」という噂は、ただの誇張なのでしょうか。
    4. 動物約4分タツノオトシゴはオスが出産する?竜のような顔に、くるりと巻いた尾。水族館の人気者タツノオトシゴの家族には、ほかの魚とはまるで違う役割分担があります。
    5. 動物約4分ウォンバットのフンはなぜ四角い?オーストラリアの森の岩の上に、サイコロのような落とし物がちょこんと置かれています。その謎に挑んだのは、意外にも工学の研究者たちでした。
    6. 動物約4分コウモリはどうやって暗闇を飛ぶ?真っ暗な洞窟の中を、ぶつからずに飛び回り、小さな虫まで捕らえる。その秘密は、200年以上にわたって研究者を悩ませてきました。
    7. 動物約4分キリンは1日に何時間眠る?「キリンはほとんど眠らない」という話を聞いたことはありませんか。調べてみると、答えは眠りの数え方と、暮らす場所によって大きく変わります。
    8. 動物約4分世界一長生きな動物は?その貝が生まれたのは、日本ではまだ戦国時代のころ。北の海には、人間の歴史をまるごと見てきたような生きものたちがいます。