ヒトデには脳がない?
はい。脳の代わりに口のまわりの神経の輪と、腕に沿った神経で体を動かしています。
磯の岩場や水族館のタッチプールで、星の形をしたヒトデを見かけることがあります。じっとしているように見えて、裏返せば無数の小さな足をうごめかせ、ちゃんと行きたい方向へ進んでいきます。
ところが、このヒトデには脳がありません。見たり、においをかいだり、獲物に向かって進んだりしているのに、それをまとめる司令塔が見当たらないのです。では、ヒトデはどうやって体を動かしているのでしょうか。
司令塔のない神経
ヒトデはウニやナマコと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間で、世界に1900種ほどが知られています。体の裏側の真ん中には口があり、その口をぐるりと取り囲むように、神経の輪が走っています。そこから5本の腕それぞれに太い神経が1本ずつ伸び、さらに体の表面には網の目のような神経が広がっています。
この神経の輪は、脳のように情報を一手に引き受ける場所ではありません。腕の神経はそれぞれ、ある程度自分で判断して動いています。たとえば、ある腕が餌のにおいなど魅力的なものを感じ取ると、その腕が一時的に「先頭」になり、ほかの腕を従えて、そちらへ向かって進み始めるのです。決まった頭がないかわりに、その時々でリーダー役の腕が入れ替わるというわけです。
腕の先の目と、水で動く足
脳はなくても、ヒトデには感覚器官があります。それぞれの腕の先には「眼点」と呼ばれる目があり、80〜200個ほどの小さな単眼が集まってできています。ものの形をくっきり見るほどの力はありませんが、明るさや大まかな景色の違いを見分けていると考えられています。
体を動かすしくみも独特です。腕の裏側には「管足(かんそく)」という小さな足がずらりと並んでいて、体の中にめぐらせた水の通り道(水管系)の圧力で伸び縮みします。管足の先は吸盤のように見えますが、実際には粘着性の物質を出して岩などに貼りつき、別の物質を出してはがれるとされています。
食事の仕方も変わっています。二枚貝などを食べるとき、多くのヒトデは自分の胃を口から外へ押し出し、獲物を包み込んで消化してしまうのです。
体全体が「頭」だった?
脳がないどころか、ヒトデには体全体が頭なのではないか、という研究もあります。
ヒトデの子ども(幼生)は、人間と同じように左右対称の体をしていて、成長の途中で星形に変わります。左右対称の祖先から、どうやって5方向に広がる体ができたのか。これは長いあいだ動物学の大きな謎でした。
アメリカのスタンフォード大学のローラン・フォルメリさんらの研究チームは、コウモリヒトデの仲間を使って、ほかの動物で「頭」「胴体」「尾」をつくるのに働く遺伝子が、ヒトデの体のどこで働いているかを詳しく調べ、2023年に科学誌『ネイチャー』に発表しました。すると、頭をつくる遺伝子は体の中心と、それぞれの腕の中央の線に沿って働いていて、尾に関係する遺伝子は腕のふちのほうで働いていました。一方、胴体をつくる遺伝子は、体の表面のどこにも見当たらなかったのです。
フォルメリさんは、ヒトデはまるで胴体をまるごと欠いていて、「海底をはい回る頭」と表現するのがいちばんふさわしいようだと述べています。もちろん、これは遺伝子の働き方から見た一つの解釈で、ヒトデの進化の道のりについては、まだ多くの謎が残されています。
腕1本から全身がよみがえる
ヒトデといえば、再生する力の強さもよく知られています。腕を失っても、時間をかければ新しい腕を生やすことができるのです。
なかでも驚かされるのが、熱帯の海にすむアオヒトデの仲間です。切り離された腕1本から、残りの体がまるごと再生することがあり、長い腕から小さな腕が生えた姿が彗星のように見えることから、この状態は「コメット(彗星)」と呼ばれています。元の姿に戻るまでには数か月かかるといわれます。