ゴキブリは頭がなくても生きられる?
しばらくは生きられます。よく1週間ほどといわれ、数週間生きた例も報告されています。
台所の暗がりから現れて、人間をぎょっとさせるゴキブリ。その生命力の強さは昔から語りぐさで、「頭を取られても1週間は生きている」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。
いかにも都市伝説めいた話ですが、じつはこれ、かなりの部分が本当です。頭を失ったゴキブリは、しばらくのあいだ立ち上がり、触れられれば足を動かして逃げようとさえします。なぜそんなことができるのか。その理由は、私たちとはまるで違う体のつくりにあります。
血が噴き出さない体
人間が首を失えば、大量の出血と呼吸の停止によって、すぐに命を落とします。ところがゴキブリには、そのどちらも起こりにくいのです。
まず血の流れ方が違います。私たちの体では、心臓が強い圧力で血を送り出し、血液は血管の中をめぐっています。一方、昆虫の血(血リンパ)は血管の中に閉じ込められておらず、体の中のすき間をゆっくりと満たすように流れています。これを「開放血管系」といいます。昆虫の心臓は背中に沿って伸びる細長い管で、血リンパを頭のほうへ送り出すと、あとは体の中を自然にめぐって戻ってくるという、のんびりしたしくみです。血圧がとても低いので、首が切れても血が勢いよく噴き出すことはありません。アメリカのマサチューセッツ大学アマースト校の生理学者ジョセフ・クンケルさんによると、首の切り口は血が固まることで自然にふさがってしまうことが多いといいます。
呼吸は体じゅうの穴で
次に呼吸です。ゴキブリは口や鼻で息をしているわけではありません。胸や腹の側面に「気門」と呼ばれる小さな穴が並んでいて、そこから取り込んだ空気が、「気管」という細い管を通って体のすみずみの組織へ直接届けられます。
人間の呼吸は脳の一部がリズムを刻んで動かしていますが、ゴキブリの呼吸は頭の脳に頼っていません。頭がなくなっても、体の側面の穴から空気が入り続けるのです。
脳がなくても体は動く
それにしても、脳がないのにどうして立ったり歩いたりできるのでしょうか。昆虫の神経は、頭の脳にすべてが集中しているわけではありません。胸や腹の節ごとに「神経節」という神経のかたまりがあり、足の動きなどの簡単な反射は、そこで処理することができます。人間でいえば、ひざをたたくと脳を通さずに足が跳ね上がる反射に近いものです。そのため頭がなくても、立ち続けたり、触られると反応して動いたりできるのです。
もっとも、できるのはごく単純な反応だけです。何かを学んだり、餌を探しに出かけたりといった複雑なふるまいは、頭なしでは望めません。
最後は渇きに負ける
では、頭のないゴキブリはどれくらい生きられるのでしょうか。一般には1週間ほどとよくいわれます。ある研究者が切り口を歯科用のろうでふさいだところ、瓶の中で数週間生き続けたものもいたそうです。昆虫は体温を保つためにエネルギーを使わないので、1度の食事で何週間も持ちこたえられるのです。
それでも、いずれは死を迎えます。口がなければ水を飲むことができないため、最後は渇きで死ぬと説明されることがよくあります。またクンケルさんは、カビや細菌などに感染したり、ほかの動物に食べられたりすることも死因になると話しています。
ちなみに、切り離された頭のほうも、すぐには死にません。触角を数時間ほど動かし続け、栄養を与えて冷やしておけば、さらに長く持つこともあるといいます。