くしゃみはなぜ出る?
鼻の中の異物を、息で一気に吹き飛ばすための反射です。脳幹が全身の筋肉に号令をかけています。
18〜35%
鼻の奥がむずむずして、息を大きく吸い込み、こらえようとしても「ハクション」。くしゃみは、自分の意思ではほとんど止められない体の動きです。花粉の季節にはうんざりするほど出るのに、出そうで出ないときはなんとももどかしいものです。
この一瞬の出来事の裏では、鼻と脳と全身の筋肉が、驚くほど息の合った連係プレーを見せています。
鼻からの「緊急排出」
くしゃみの目的は、鼻の中に入り込んだ異物を追い出すことです。ほこりや花粉、冷たい空気、ウイルスなどが鼻の粘膜を刺激すると、その情報は顔の感覚を受け持つ三叉神経(さんさしんけい)を通って、脳の奥にある脳幹へ届きます。
信号を受け取った脳幹の延髄は、のど、胸、おなかの筋肉にいっせいに指令を出します。まず大きく息を吸い込み、のどが一瞬閉じて肺の中の圧力が高まります。そして閉じていた通り道が開くと同時に、ためた空気が鼻と口から勢いよく吹き出すのです。このときまぶたの筋肉も勝手に縮み、目は反射的に閉じてしまいます。
つまりくしゃみは、鼻のための強力な「掃除機の逆回し」です。せきが気管や肺から異物を追い出すのに対し、くしゃみは鼻の通り道を受け持っている、と考えるとわかりやすいでしょう。
まぶしい光でもくしゃみが出る
暗いトンネルを抜けて日差しを浴びた瞬間や、ふと太陽を見上げたときに、くしゃみが出る人がいます。これは「光くしゃみ反射」と呼ばれる体質で、世界の人口の18〜35%ほどに見られると推定されています。親から子へ受け継がれやすい傾向があることも知られています。
この現象は大昔から人々の関心を集めてきました。古代ギリシアのアリストテレスは、太陽の熱が鼻を温めるからだと考えました。のちにイギリスの哲学者フランシス・ベーコンは、目を閉じて太陽のほうを向くとくしゃみが出ないことを確かめ、目が関わっているのではないかと考えています。
なぜ光で鼻の反射が起きるのか、仕組みはまだはっきりしていません。目からの信号を伝える視神経と、鼻の感覚を伝える三叉神経が脳の中で近くを通っているため、強い光の刺激が鼻の刺激と「混線」するのではないか、という説が有力です。ほかにも、満腹になるとくしゃみが出るという、ちょっと変わった体質の人もいます。
「時速160km」は本当?
くしゃみの速さは「時速160km」、なかには「時速300km以上」と紹介されることもあります。しかし、実際に測ってみると、話はずいぶん違いました。
こうした大きな数字のもとになったとされるのは、20世紀半ばの研究者が、飛び散るしぶきの大きさから「これくらいの速さの空気が必要なはずだ」と逆算した見積もりです。直接測ったものではありませんでした。
2013年、ジュリアン・タン博士らの研究チームは、空気の流れを光の屈折で浮かび上がらせる特殊な撮影法と高速カメラを使い、6人のボランティアのくしゃみを直接観察しました。その結果、空気の速さは最大でも秒速約4.5メートル、時速にして約16kmほど。せきとあまり変わらない速さでした。ただし被験者は少人数で、体の大きな人ならもっと速くなるかもしれないと博士自身も述べています。測り方によっては時速数十km程度という値も報告されていますが、「新幹線並み」には遠く及びません。
一方で、飛ぶ距離は思ったより長いようです。2020年に発表された研究では、細かなしぶきを含んだ息のかたまりが7〜8メートル先まで届く可能性が示されました。速さは控えめでも、くしゃみのしぶきは部屋の中をかなり遠くまで漂っていくのです。
無理にこらえるのは危ない
人前でくしゃみをするのが恥ずかしくて、鼻をつまみ、口を閉じて押さえ込もうとする人もいるかもしれません。でも、これはおすすめできません。行き場を失った空気の圧力が、のどや気道に大きな負担をかけるからです。
2018年には、イギリスの34歳の男性が、鼻をつまんで口を閉じたまま強いくしゃみをこらえたところ、のどの奥に穴があいてしまったという症例が医学誌に報告されました。男性は首にポンとはじけるような感覚を覚え、その後のどが腫れて声も変わり、入院することになったといいます。
くしゃみが出そうなときは無理に止めず、ティッシュやハンカチ、なければ服のひじの内側で口と鼻を覆うのがいちばんです。