人の体で一番強い筋肉は?
「強さ」の測り方しだいです。大きさに比べた力なら、あごの咬筋がよく挙げられます。
442kg
人の体には600を超える筋肉があるといわれます。そのなかで一番強いのはどれか。腕相撲を思い浮かべて腕の筋肉と答える人もいれば、重い体を支える太ももと答える人もいるでしょう。
ところが、この質問には決まった正解がありません。「強い」という言葉が、とても多くの意味を含んでいるからです。一瞬で出せる力の大きさなのか、筋肉の大きさのわりに出せる力なのか、それとも休まず働き続ける粘り強さなのか。物差しを変えるたびに、優勝する筋肉が入れ替わります。
体の大きさに比べて強いのは「あご」
よく「一番強い筋肉」として名前が挙がるのが、あごの両側にある**咬筋(こうきん)**です。歯を食いしばったときに、頬の後ろのほうで硬く盛り上がる筋肉といえば、すぐに場所がわかるはずです。
咬筋そのものは手のひらに収まるほどの大きさですが、てこの原理がうまく働く位置についているため、その大きさのわりに大きな力を歯に伝えられます。アメリカ議会図書館の解説によれば、あごの筋肉が協力すると、前歯で約25キロ、奥歯では約90キロもの力でかみしめることができるとされています。
ギネス世界記録には、1986年にアメリカのフロリダ大学で測定された、442キロという人間のかむ力の記録が残っています。もちろんこれは特別な例で、ふつうの人の何倍にもあたる数字です。ギネスもこの記録に関連して、咬筋を「最も強い筋肉」として紹介しています。
一番大きいのはお尻、引く力ならふくらはぎ
物差しを「筋肉全体として出せる力」に変えると、主役は下半身に移ります。
体のなかで最も大きな筋肉は、お尻をかたちづくる大殿筋(だいでんきん)です。立ち上がる、階段をのぼる、走るといった動作で、体重を持ち上げる役目を担っています。人が二本足で立って歩くようになったことと深く関係している筋肉だと考えられています。
さらにアメリカ議会図書館は、最も大きな力で引っ張ることができる筋肉として、ふくらはぎの奥にあるヒラメ筋を挙げています。ヒラメ筋は、ふくらはぎの表面にある腓腹筋(ひふくきん)の下に隠れている平たい筋肉で、歩く、走る、つま先立ちをするといった動きのたびに、体重を受け止めて踏ん張っています。
休まない強さなら心臓
「疲れずに働き続ける」という物差しで選ぶなら、心臓の右に出るものはありません。
心臓は心筋という特別な筋肉でできていて、私たちが眠っているあいだも休むことなく縮み続けます。1日に打つ拍動はおよそ10万回。一生のあいだでは、20億回を超える計算になります。一回一回の力はかむ力にはかないませんが、生まれてから最期の瞬間まで止まらずに働き続ける持久力は、ほかのどの筋肉にもまねできません。
このほか、本を読むあいだにも細かく向きを変え続ける目の筋肉や、出産のときに大きな力で収縮する子宮の筋肉も、それぞれの意味で「強い筋肉」の候補に挙げられることがあります。
「舌が一番強い」は本当?
インターネットなどでときどき見かけるのが、「舌は体で一番強い筋肉」という話です。しかし、これは正確ではありません。
まず舌は、ひとつの筋肉ではなく、いくつもの筋肉が組み合わさってできています。ものを飲み込んだり、言葉を発したりするために、驚くほど器用に形を変えられるのはそのためです。舌が一日じゅう細かく動き続ける働き者であることは確かですが、出せる力の大きさでいえば、咬筋や大殿筋にはとても及びません。
「一番強い筋肉は?」と聞かれたら、まず「どんな強さのこと?」と聞き返すのが、いちばん正確な答え方なのかもしれません。