ラッコは手をつないで眠る?
つなぐ姿は主に水族館などで見られるもの。野生ではおもに海藻を体に巻いて、流されないようにします。
水面に仰向けに浮かんだ2頭のラッコが、前足をそっとつないだまま眠っている。水族館で撮られたそんな映像は、世界中で「かわいすぎる」と話題になってきました。眠っているあいだに離ればなれにならないよう、手をつないでいるのだと紹介されることもよくあります。
では、野生のラッコも、毎晩こうして手をつないで眠っているのでしょうか。実際の海での姿をのぞいてみると、少し違った光景が見えてきます。
海の上で暮らす動物
ラッコはイタチの仲間で、北太平洋の沿岸にすんでいます。陸に上がることもありますが、食事も睡眠も子育ても、ほとんどを海の上で済ませてしまいます。
休むときは、海面に仰向けに浮かびます。そして多くの場合、群れで集まって休みます。こうした群れは英語で「ラフト(いかだ)」と呼ばれ、ふつうはオスどうし、メスどうしに分かれた10〜100頭ほどの集まりです。これまでに観察された最大のラフトは、2000頭を超えていたといいます。
ただ、波や風や潮の流れのある海で無防備に眠っていたら、いつの間にか遠くへ流されてしまいかねません。そこでラッコが頼りにしているのが、仲間の手よりもむしろ海藻です。
海藻は天然の「いかり」
ラッコがすむ海には、ジャイアントケルプなどの大きな海藻が林のように茂る場所があります。ラッコは休むとき、この長い海藻を体にくるくると巻きつけたり、海藻につかまったりして、流されないようにしています。海藻は海底に根を張っているので、ちょうど船のいかりのような役目を果たすのです。
では、手をつなぐ行動はどうでしょう。眠るときに前足をつなぐ姿は、主に水族館などの飼育下で見られるものだとされています。水槽には体を巻きつける海藻がないことも多く、仲間どうしでつかまり合っているのではないか、と考えられています。野生でラッコどうしがつかまり合うことがまったくないわけではないようですが、群れで眠るときの決まった習性として確かめられているわけではありません。
一方で、野生でもしっかりと「つないで」いる相手がいます。母親と赤ちゃんです。母親は赤ちゃんをおなかの上に乗せて抱きかかえ、海に浮かんだまま世話をします。
胸の上の作業台
ラッコは、道具を使う数少ない哺乳類としても知られています。海に潜って貝やウニを取ってくると、仰向けになって胸の上に石を置き、そこに貝を打ちつけて割るのです。
前足の脇の下には皮膚のたるみがあり、ここをポケットのように使って、取ってきた食べものや気に入った石をしまっておくこともあります。
これほど熱心に食事をするのには理由があります。ラッコには、クジラやアザラシのような分厚い脂肪の層がありません。冷たい海で体温を保つため、たくさん食べて体の中で熱をつくり続ける必要があり、1日に体重の4分の1以上もの量を食べるといわれます。
体を冷えから守るもうひとつの武器が、毛皮です。ラッコの毛は1平方センチメートルあたり10万本以上と、動物の中でもとびきり密に生えています。ところがこの見事な毛皮が、かつてラッコを絶滅寸前に追いこみました。毛皮を目当てにした乱獲で、15万〜30万頭ほどいたとされる数が、1000〜2000頭ほどにまで減ってしまったのです。その後の保護によって、生息数は少しずつ回復してきました。
ラッコが戻ってくると、海そのものも変わります。海藻を食べるウニをラッコが食べることで、ウニが増えすぎず、海藻の林が守られるのです。眠るときのいかりになる海藻の林を、ラッコ自身が育てているともいえます。