土星は水に浮く?
土星全体の平均密度は水より小さく、計算上は浮きます。ただし実際に試すことはできません。
0.69g/cm³
「土星は、水に浮かべたら浮く」。宇宙の雑学として、よく耳にする話です。地球の9倍以上もの直径をもつ巨大な惑星が、ぷかぷかと水に浮かぶ。にわかには信じがたい光景ですが、これは数字のうえでは正しい話です。
ただし、話には続きがあります。実際に土星を水に浮かべてみることは、どうやってもできません。この噂は、土星の「中身」を考えるための、よくできた思考実験なのです。
体積は地球の約760倍、質量は約95倍
ものが水に浮くか沈むかは、密度で決まります。同じ体積あたりの重さが水より小さければ浮き、大きければ沈む。氷が水に浮くのも、密度が水よりわずかに小さいからです。
土星の体積は、地球の約760倍もあります。ところが質量は、地球の約95倍にとどまります。体積のわりに、ずいぶん軽いのです。これをもとに平均の密度を計算すると、1立方センチメートルあたり約0.69グラム。水の密度は約1グラムですから、土星は同じ体積の水より3割ほど軽いことになります。太陽系の惑星のなかで、平均密度が水を下回るのは土星だけです。
ほかの惑星と比べると、その特異さがよくわかります。岩石と金属でできた地球の平均密度は約5.5グラムで、土星のおよそ8倍。同じガスの巨大惑星である木星でさえ、約1.3グラムあります。
中身のほとんどは、水素とヘリウム
土星がこれほど軽いのは、主に水素とヘリウムという、宇宙でもっとも軽い2つの元素でできているからです。私たちが写真で目にする淡い黄色の縞模様は、その厚い大気に浮かぶ雲の模様です。
もっとも、土星が中までふわふわのガスでできているわけではありません。奥へ進むほど圧力は高まり、水素は液体のようにふるまうようになり、さらに深いところでは電気を通す「金属水素」と呼ばれる状態になっていると考えられています。
中心部には岩石や氷の成分が集まっていますが、その姿も一筋縄ではいきません。2021年に発表された研究では、土星の中心にあるのは硬くはっきりした核ではなく、水素などと混ざり合いながら半径の6割ほどにまで広がる、境目のぼんやりした核である可能性が示されました。土星の内部の揺れが環に刻む波の模様を読み解くという、ユニークな方法による成果です。
つまり0.69という値は、密度の高い中心部から軽い外側までをならした「平均」です。土星のどこを切り取っても水より軽い、というわけではありません。
浮かべる「お風呂」は存在しない
では本当に、土星を水に浮かべることはできるのでしょうか。思考実験として想像してみると、すぐにいくつもの壁にぶつかります。
まず、土星が入るほどの水を用意すること自体が不可能です。直径12万キロメートルもの天体を浮かべるには、それより大きな浴槽と、途方もない量の水が必要になります。それほどの水を一か所に集めれば、その重さは土星そのものを上回り、水は自らの重力で丸くまとまって、ひとつの天体になってしまうでしょう。
さらに、土星にはくっきりとした「表面」がありません。大気はだんだん濃くなりながら、そのまま内部へとつながっています。水に触れた外側のガスは、ボールのように形を保つことなく、混ざったり散らばったりしてしまうはずです。
「土星は水に浮く」というのは、平均密度が水より小さいという事実を、印象的に言い表したたとえだと考えるのがよさそうです。
軽さと速さが生んだ、つぶれた姿
土星の軽さは、その見た目にも表れています。写真をよく見ると、土星は完全な球ではなく、横に少しつぶれた形をしています。赤道方向の直径は約12万500キロメートル、南北方向の直径は約10万9000キロメートルで、その差はおよそ1割。太陽系の惑星のなかで、もっともつぶれた惑星です。
原因は、速い自転です。土星はあれほど巨大でありながら、わずか10時間半ほどで1回転します。赤道付近では遠心力が強く働き、密度が低く変形しやすい体が外側へとふくらんでいるのです。
実は、この自転周期を正確に測ることは、長年の難問でした。土星には固い地面がなく、雲の模様も場所によって流れる速さが違うため、目印にできるものがないのです。2019年には、ここでも環に現れる波の模様を手がかりに、約10時間33分という値が報告されました。土星の素顔を知るうえで、環は思いがけず頼れる観測装置になっています。