宇宙飛行士は宇宙で背が伸びる?
伸びます。背骨のすき間が広がって最大3%ほど高くなりますが、地球に戻ると元に戻ります。
3%
2018年1月、国際宇宙ステーションに滞在していた金井宣茂宇宙飛行士のSNSへの投稿が、ちょっとした騒ぎになりました。宇宙に来て3週間ほどで身長を測ったら、9センチも伸びていた、というのです。
ところが翌日、金井さんは訂正を投稿します。同僚のロシア人船長に「そんなに伸びるはずがない」と指摘されて測り直したところ、実際の伸びは約2センチでした。帰りのソユーズ宇宙船の座席に体が収まるか心配していた金井さんは、これなら乗れそうで安心だと胸をなでおろしています。9センチは測り間違いでしたが、宇宙で背が伸びること自体は本当なのです。
背骨は、いつも押し縮められている
私たちの背骨は、椎骨という骨が積み重なってできています。骨と骨のあいだには、クッションの役割をする椎間板がはさまっています。地上では、頭や上半身の重さが常に上からのしかかり、椎間板はわずかに押しつぶされた状態にあります。
宇宙ステーションのような無重量の環境では、この重みがなくなります。押さえつけられていた椎間板はふくらみ、背骨の自然なカーブも少し伸びます。その結果、身長が伸びるのです。NASAによると、宇宙飛行士の身長は滞在中に最大で**約3%**伸びることがあります。身長180センチの人なら、5センチほどの計算です。伸びの大部分は、宇宙に着いて間もないうちに起こるといわれています。NASAは2013年から、宇宙ステーションに持ち込んだ超音波検査の装置を使って、滞在中の飛行士の背骨がどう変化するのかを調べる研究も行ってきました。
双子で比べた「宇宙の1年」
2015年から2016年にかけて、NASAの宇宙飛行士スコット・ケリーは、国際宇宙ステーションに340日間滞在しました。彼には、同じく宇宙飛行士で一卵性の双子の兄弟、マークがいます。NASAはこの機会を生かし、宇宙で暮らしたスコットと、地上に残ったマークの体を比べる「双子研究」を行いました。身長のほかにも、遺伝子の働きや目の状態、腸内細菌など、さまざまな変化が調べられています。
滞在中、スコットの身長は約5センチ伸び、一時的には双子のマークより背が高くなったと報じられました。もっとも、この差は長くは続きません。地球に戻れば重力が再び背骨を押し縮め、身長は短い期間で元に戻ります。宇宙での「成長」は、地上に帰れば消えてしまう、期間限定のものなのです。
伸びることは、いいことばかりではない
背が伸びると聞くとうらやましく思えますが、宇宙飛行士にとっては悩みの種にもなります。滞在の初めのころには、多くの飛行士が腰や背中の痛みを訴えます。急に伸びた背骨や、そのまわりの筋肉、神経に負担がかかるためと考えられています。地上に戻ってしばらくのあいだは、椎間板のトラブルが起こりやすいという報告もあります。
服や装備にも影響があります。宇宙服は、宇宙で背が伸びることも見込んで作られていますし、宇宙船の座席には、収まることのできる身長の範囲が決められています。金井さんがソユーズの座席を心配したのも、もっともなことでした。
顔は丸く、脚は細く
宇宙で変わるのは身長だけではありません。地上では重力に引かれて下半身にたまりがちな血液などの体液が、無重量の環境では上半身へと移動します。その結果、顔はむくんで丸みを帯び、反対に脚は細くなります。宇宙飛行士のあいだでは「パフィーフェイス・バードレッグ(むくんだ顔と鳥の脚)」とも呼ばれる現象です。
こうした変化の多くは、地上に戻ればやがて元に戻ります。一方で、骨や筋肉が弱くなるといった、回復に時間のかかる変化もあります。宇宙飛行士たちが滞在中に毎日2時間ほど運動を続けるのは、地上に戻る日に備えて、体を保っておくためでもあるのです。