ニンジンはもともと紫色だった?
最初に栽培されたのは紫や黄色のニンジンでした。オレンジ色は16世紀ごろのヨーロッパで広まった新顔です。
カレーにきんぴら、サラダに煮物。ニンジンのあざやかなオレンジ色は、料理に彩りを添えてくれます。絵本でもイラストでも、ニンジンといえばオレンジ色と決まっているようなものです。
ところが、ニンジンの長い歴史から見ると、オレンジ色はむしろ新しい色です。「ニンジンはもともと紫色だった」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは、半分正解といったところです。
野生のニンジンは白っぽかった
ニンジンの祖先は、ヨーロッパから西アジアに広く自生する野生のニンジンです。白いレースのような花を咲かせる草で、根は白っぽく、細くて硬いものでした。
スイスやドイツ南部の遺跡からは、数千年前の野生のニンジンの種が見つかっています。ただ、このころの人々が利用していたのは、主に香りのよい種や葉だったと考えられています。根を食べる野菜としてのニンジンが登場するのは、もっとずっと後のことです。
最初の栽培ニンジンは紫と黄色
根を食べるためのニンジンが栽培されるようになったのは、今からおよそ1100年前、10世紀ごろの中央アジアだと考えられています。今のアフガニスタンのあたりです。
このとき畑で育てられていたのは、紫色と黄色のニンジンでした。紫色は、ブドウやナスの皮と同じアントシアニンという色素によるものです。やがてニンジンは西へと伝わり、12世紀ごろにはヨーロッパでも栽培されるようになります。ヨーロッパでは、紫よりも黄色のニンジンのほうが好まれたようです。味がよかったためと考えられています。
つまり、最初の栽培ニンジンは「紫だけ」ではなく、「紫と黄色」でした。「もともと紫色だった」という話が半分正解というのは、このためです。
オレンジ色は16世紀のヨーロッパから
オレンジ色のニンジンが現れたのは、15〜16世紀ごろの西ヨーロッパです。2023年、アメリカのノースカロライナ州立大学などの研究チームは、630系統ものニンジンの遺伝子を調べた結果を科学誌『ネイチャー・プランツ』に発表しました。それによると、オレンジ色のニンジンは白いニンジンと黄色いニンジンをもとに生まれたとみられ、根にβ-カロテンを大量にためこむには、三つの遺伝子がそろって「働かなくなる」必要があったといいます。
オレンジ色のニンジンを品種として磨き上げたのは、オランダの農家でした。18世紀の初めに記録された「ロング・オレンジ」という品種は、今のオレンジ色のニンジンの多くの祖先とされています。
オランダでは、独立運動の指導者オラニエ公ウィレム(英語でオレンジ公ウィリアム)をたたえるために、オレンジ色のニンジンを作ったという話がよく語られます。しかし、これを裏づける確かな証拠はありません。紫色のニンジンは煮込むとスープを濁った色に染めてしまうので、見た目のよいオレンジ色が好まれたのではないか、という見方もあります。
日本にやってきた二つのニンジン
日本には、ニンジンが二つのルートでやってきました。一つは、中国を経て16世紀末〜17世紀に伝わった東洋系のニンジンです。赤や白、黄、紫など色とりどりで、細長いのが特徴でした。もう一つは、江戸時代の末から明治にかけて、ヨーロッパやアメリカから伝わった西洋系のオレンジ色のニンジンです。
育てやすい西洋系のニンジンは、食生活の洋風化とともに広まり、第二次世界大戦の後には主流になりました。いま日本で育てられている東洋系は、お正月の料理に使われる真っ赤な金時にんじんなど、ごくわずかです。金時にんじんの赤は、β-カロテンではなく、トマトと同じリコピンという色素によるものです。