宇宙で一番寒い場所は?
知られている中で最も寒いのはブーメラン星雲。温度は約1ケルビン(約−272℃)です。
−272℃
宇宙は寒い、というイメージは多くの人がもっているでしょう。では、宇宙でいちばん寒い場所はどこにあるのでしょうか。月の裏側でも、太陽から遠く離れた冥王星でもありません。答えは、地球から約5000光年離れた、ケンタウルス座の方向に浮かぶ星雲です。
その名はブーメラン星雲。そこに漂うガスの温度は、およそ1ケルビン、セ氏でいえばマイナス272度ほどと見積もられています。理論上これ以上は下がらない「絶対零度」まで、あとわずか1度という冷たさです。
宇宙の「最低気温」はマイナス270度
ブーメラン星雲のすごさを知るには、まず宇宙空間そのものの温度を知っておく必要があります。
星も惑星もない、宇宙の何もない場所の温度を決めているのは、「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれる光です。宇宙が誕生して間もない、熱い時代の名残の光で、宇宙が膨張するにつれて引き伸ばされ、すっかり冷えてしまいました。1965年、アメリカのベル研究所のアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、どの方向からもやってくる謎の電波雑音として偶然とらえたのが、発見のきっかけです。
この光は宇宙のあらゆる場所を満たしており、その温度は約2.7ケルビン、セ氏でマイナス270度ほど。宇宙にあるものは、ふつうこの温度より冷たくなることはできません。周りから絶えずこの光を浴びて、温められてしまうからです。いわば、宇宙の「最低気温」のようなものです。
背景より冷たい、ただひとつの場所
ところがブーメラン星雲のガスは、この宇宙の最低気温をさらに下回っています。
この星雲は1980年、オーストラリアの望遠鏡で観測した天文学者たちによって、その形からブーメランと名づけられました。そして1995年、チリにある電波望遠鏡で星雲のガスを詳しく調べたサハイとニーマンが、その温度が背景放射よりも低いことを突き止めます。2人は1997年、この結果を「宇宙で最も冷たい領域?」という題の論文で発表しました。
自然の天体で、背景放射より冷たいものが見つかったのは、これが初めてでした。その後もブーメラン星雲は、自然界で知られている最も冷たい場所の座を守り続けています。
急いで広がるガスは、冷える
なぜ、そこまで冷えることができるのでしょうか。カギを握るのは、星雲の中心にある年老いた星です。
この星は一生の終わりに近づき、外側のガスを猛烈な勢いで吹き出しています。その速さは秒速160キロメートルあまり、時速にすれば50万キロメートルを超えます。吹き出されたガスは、宇宙空間へ一気に広がりながら、急激に温度を下げていきます。
気体は、周りから熱を受け取る間もなく急に膨らむと、温度が下がる性質をもっています。地上で雲ができるのも、上昇した空気が膨らんで冷えるためです。ブーメラン星雲のガスはあまりにも速く広がるため、背景放射に温められるよりも先に冷えてしまうのだと考えられています。
2013年には、チリの電波望遠鏡群アルマによる観測で、星雲の詳しい姿も描き出されました。可視光で見える砂時計のような姿とは別に、冷たいガスがより細長い形に広がっている様子がとらえられたのです。中心の星が、伴星をのみこむような激しい過程を経たことが、この極端な噴き出しの原因ではないかという説も出されています。
地球の実験室は、もっと寒い
もっとも、「宇宙で一番寒い場所」という肩書きには、ひとつ注釈がつきます。あくまで自然の中での話だ、ということです。
人類は実験室で、ブーメラン星雲よりはるかに低い温度をつくり出してきました。2018年には、国際宇宙ステーションに設置されたNASAの実験装置「コールド・アトム・ラボ」で、原子のガスが絶対零度から1000万分の1度ほどの温度まで冷やされています。ドイツのブレーメンでは、高い落下塔の中で原子を自由落下させる実験によって、絶対零度からわずか1兆分の38度という記録も報告されました。
一方、私たちの太陽系の中にも、天然の極寒地はあります。月の極地方には、太陽の光がまったく差し込まないクレーターがあり、その底ではマイナス249度ほどの温度が観測されています。それでも背景放射の約10倍の温度があり、ブーメラン星雲の冷たさには遠く及びません。