植物は夜に眠る?
夜に葉や花を閉じる「就眠運動」をする植物があり、そのリズムは体内時計が刻んでいます。
1729年
夏の夕方、ネムノキの木を見上げてみてください。昼間は鳥の羽のように広がっていた細かい葉が、日が暮れるとぴったりと合わさり、しおれたように垂れ下がっています。ところが翌朝には、何事もなかったかのように再び葉を広げています。
ネムノキという名前は、この様子を「眠る」と見立てたことから来ているといわれます。夜になると葉や花を閉じる植物はほかにも多く、身近なところではシロツメクサ(クローバー)やカタバミ、オジギソウなどがあります。植物は、本当に夜に眠っているのでしょうか。
2000年以上前の観察
植物の「眠り」に気づいた人は、とても昔からいました。記録に残る最も古い観察は、紀元前4世紀、アレクサンドロス大王の遠征に同行したタソス島のアンドロステネスによるものとされています。彼は、ある木の葉が夜に閉じ、日の出とともに開くことを書き留めました。この木は、のちにマメ科のタマリンドだと考えられています。
18世紀には、スウェーデンの植物学者リンネもこの現象に強い関心を寄せ、植物の「睡眠」と呼んで研究しました。現在では、夜に葉や花を閉じるこうした動きを「就眠運動」と呼んでいます。
暗闇でも葉は動いた
就眠運動の研究は、思いがけない大発見につながりました。
1729年、フランスの天文学者ド・メランは、オジギソウを日の光の届かない暗い場所に置いて観察しました。光がなければ、昼と夜はわからないはずです。ところがオジギソウは、暗闇の中でも、ほぼ24時間の周期で葉を開いたり閉じたりし続けたのです。
これは、植物が外の明るさに反応しているだけでなく、体の中に時を刻むしくみをもっていることを示す、初めての実験でした。このしくみは現在「体内時計」と呼ばれ、約1日の周期でくり返されるリズムは、ラテン語の「およそ」と「1日」を組み合わせて「サーカディアンリズム」と名づけられています。体内時計は、のちに動物にも人間にも備わっていることがわかり、2017年には、その仕組みを遺伝子のレベルで解き明かした3人のアメリカの研究者にノーベル生理学・医学賞が贈られました。
葉のつけ根の「関節」
では、葉はどうやって動くのでしょうか。マメ科やカタバミのなかまの葉のつけ根には、「葉枕(ようちん)」と呼ばれる、少しふくらんだ部分があります。
葉枕の中では、細胞がカリウムなどのイオンを出し入れし、それにつれて水が出たり入ったりします。上側と下側の細胞のどちらかが水を吸ってふくらみ、もう一方がしぼむことで、葉枕が関節のように曲がり、葉が持ち上がったり垂れ下がったりするのです。葉を閉じさせる物質と開かせる物質も見つかっており、そのはたらきが体内時計によって切り替わっていると考えられています。
なぜ夜に葉を閉じるのかについては、いまもはっきりした答えがありません。進化論のダーウィンは、夜に葉から熱が逃げて冷えすぎるのを防ぐためだと考えました。ほかにも、夜に活動する虫に食べられにくくするため、水分の蒸発を抑えるため、花粉を守るため、などの説があります。
リンネの花時計
体内時計で動くのは、葉だけではありません。決まった時刻に花を開いたり閉じたりする植物もあります。
リンネはこの性質に目をつけ、1751年の著書『植物哲学』の中で「花時計」というアイデアを紹介しました。開花や閉花の時刻が違う植物を時計の文字盤のように並べて植えれば、花を見るだけで時刻がわかる、というものです。リンネの記録では、たとえばタンポポは朝5時ごろに開き、8〜9時ごろに閉じる、といった具合です。
ただ、リンネ自身が実際にこの庭をつくったかどうかはわかっていません。19世紀には、いくつかの植物園が花時計づくりに挑戦しましたが、成果はまちまちでした。花の開く時刻は天気や季節、土地の緯度によって変わってしまうからです。リンネが記録した時刻も、彼が暮らしたスウェーデンのウプサラでの観察にもとづくものでした。