何千年も前の種は芽を出す?
出ることがあります。約2000年前のナツメヤシの種が、2005年に発芽した例などが知られています。
2000年
種は、植物がつくる小さなタイムカプセルです。固い殻の中に、芽や根のもとと、育ち始めるための栄養を詰めこみ、条件がそろう日をじっと待ちます。
たいていの種は、数年から数十年もすると芽を出す力を失ってしまいます。ところが、遺跡や凍った大地の中から、とてつもなく古い種がよみがえった、という記録がいくつも残っています。
弥生時代のハス?
1951年3月30日、千葉市検見川(けみがわ)にあった東京大学の農場の遺跡で、ハスの研究で知られる植物学者・大賀一郎の発掘調査が行われていました。その日の夕方、手伝いに来ていた地元の女子中学生が、地下約6メートルの泥炭の層から、ハスの実を1粒見つけます。その後さらに2粒が掘り出され、見つかった実は3粒になりました。
大賀は発芽を試み、そのうちの1粒が芽を出すことに成功します。そして翌1952年7月18日、ピンク色の大きな花を咲かせました。このハスは「大賀ハス」と名づけられ、アメリカの雑誌『ライフ』で「世界最古の花」として紹介されて、一躍有名になりました。
ただし、大賀ハスの年代には注意が必要です。シカゴ大学で放射性炭素年代測定にかけられたのは、ハスの実そのものではなく、実より上の層から出た丸木舟の木片でした。その結果をもとに、実は少なくとも2000年前、弥生時代以前のものと考えられたのです。当時の技術では測定に多くの実が必要だったため、貴重な3粒を測ることはできませんでした。実そのものの年代は、厳密には確かめられていないのです。
年代がはかられた2000年前のナツメヤシ
年代がよりはっきりしている例が、イスラエルのナツメヤシです。1960年代、死海のほとりにある古代の要塞マサダの遺跡を発掘した際、つぼの中からナツメヤシの種が見つかりました。放射性炭素年代測定によると、紀元前155年から紀元64年ごろのものと推定されています。
2005年、植物学者のイレーン・ソロウェイさんらがこの種に水を含ませ、植物ホルモンで処理して植えたところ、そのうちの1粒が芽を出しました。苗は、旧約聖書に登場する長寿の人物にちなんで「メトシェラ」と名づけられます。
メトシェラはオスの木で、のちに花粉をつけるまでに育ちました。その後、ほかの遺跡から出た古い種も次々と芽を出し、2021年からは、メトシェラの花粉を受けたメスの木「ハンナ」が実をつけています。2000年ぶりの「古代のナツメヤシの実」が収穫されたのです。
3万2000年前の実から花を咲かせる
さらに桁違いの記録もあります。2012年、ロシア科学アカデミーの研究チームは、シベリア北東部・コリマ川流域の永久凍土で、地下20〜40メートルに埋まっていた古代のジリスの巣穴から、ナデシコ科のスガワラビランジの実を見つけたと発表しました。放射性炭素年代測定による年代は、約3万1800年前です。
ただし、このとき種そのものは芽を出しませんでした。研究チームは、まだ熟していない実の組織を取り出し、組織培養という方法で植物の体をまるごと育て上げたのです。育った株は白い花を咲かせ、その種からは次の世代も育ちました。
とても魅力的な成果ですが、種が自然に「発芽」したわけではないこと、ほかの研究者による確認が求められることも指摘されています。古い種の話には、慎重さが欠かせません。1967年には、カナダ・ユーコン準州のレミングの巣穴から出た種が「1万年前のもの」として芽を出したと報告されましたが、2009年に種そのものを測り直したところ、ごく最近の種だったことがわかった、という例もあるのです。