松ぼっくりはなぜ開いたり閉じたりする?
鱗片が、水を吸ったときの伸び方が違う2つの層でできていて、湿ると閉じ、乾くと開くからです。
秋の公園や海辺の松林を歩くと、足もとに松ぼっくりがたくさん落ちています。かさを大きく開いたものを拾って家に持ち帰り、うっかり水にぬらしてしまうと、しばらくして驚くことになります。あれほど開いていたかさが、ぎゅっとすぼまって、細長い形に戻ってしまうのです。乾かすと、また元のように開きます。
木から落ちた松ぼっくりは、もう生きてはいません。それなのに、なぜ動くことができるのでしょうか。
種を飛ばすための開閉
松ぼっくりは、正式には「松かさ」と呼ばれる、マツの種をつくるための器官です。軸のまわりに、鱗片(りんぺん)と呼ばれるかさの一枚一枚がらせん状に重なり合っていて、鱗片のつけ根には種が抱えられています。マツの種には薄い羽のような翼がついていて、風に乗って遠くまで飛んでいきます。
マツの松かさは、花が咲いてから種が熟すまでに、およそ2年かかります。熟したころ、晴れて空気が乾くと鱗片が開き、種がこぼれ落ちて風に運ばれます。逆に雨の日は鱗片を閉じて、種を中にとどめておきます。ぬれた種は重く、遠くまで飛びにくいため、乾いた日を選んで種を送り出していると考えられています。
2つの層の「伸び縮みの差」
この開閉の仕組みを詳しく調べたのが、1997年に科学誌『ネイチャー』に発表された、イギリスの研究者らによる研究です。
鱗片は、性質の違う2つの層が貼り合わさったつくりになっていました。片方の層は、水を吸うと大きくふくらむ細胞でできています。もう片方の層は、かたい繊維が並んでいて、水を吸ってもあまり伸びません。測定では、湿り気に対する伸び方に3倍ほどの差がありました。
伸び方の違う2枚の板を貼り合わせると、片方だけが伸びたときに、全体が伸びにくいほうへ曲がります。温度で曲がる金属の板「バイメタル」と同じ原理を、松かさは湿り気で行っているのです。鱗片が湿ると、よく伸びる層がふくらんで鱗片が内側へ曲がり、かさが閉じます。乾くとその層が縮んで、鱗片は外側へ反り返り、かさが開きます。
死んでいても動く
この動きには、生きた細胞のはたらきは必要ありません。鱗片の組織が水を吸ったり吐いたりするだけの、純粋に物理的な現象です。だから、木から落ちて何年たった松ぼっくりでも、湿らせれば閉じ、乾かせば開きます。
どれほど長持ちするのかを確かめた研究もあります。2017年、ドイツのフライブルク大学の研究チームは、地層から見つかった球果(針葉樹のかさ)の化石を調べました。すると、約12万年前の間氷期のものだけでなく、1150万〜1650万年前の中新世のものまで、水にぬらすと鱗片が閉じ、乾かすと再び開いたのです。研究チームは、いまも動くことが確かめられた植物の器官として、最も古いものだと報告しています。
エネルギーを使わずに、湿り気だけで形を変える。この仕組みは、湿度に応じて自然に開閉する建物の外壁や、着る人の汗に反応する布など、新しい素材づくりのヒントとしても研究されています。
火事を待つ松かさ
マツの中には、ふつうの湿り気では開かない、変わった松かさをもつものもいます。北アメリカのバンクスマツやロッジポールマツの一部では、松かさが樹脂でしっかりと封じられていて、何年も枝についたまま閉じています。
この封が解けるのは、山火事のときです。炎の熱で樹脂が溶けると、ようやく松かさが開き、焼け跡に種がまかれます。火事で古い木々が焼け、地面が開けたところは、若い芽が育つのに好都合です。こうした松は、火事を待って子孫を残す戦略をとっているのです。