世界一古い木は?
1本の幹なら米国の松「メトシェラ」で推定約4850歳。根まで数えると、さらに古い木もあります。
4850年
エジプトのギザで大ピラミッドが築かれたのは、紀元前2500年代のこととされます。そのころ、遠く離れた北米大陸の山の上では、1本の松がすでに数百年を生きていました。そしてその木は、いまも生きています。
もっとも、「世界一古い木」を決めるのは意外に一筋縄ではいきません。何をもって「1本の木」と数えるのか、そして年齢をどうやって測るのか。その考え方しだいで、答えが変わってくるからです。
年輪で数えれば「メトシェラ」
樹齢を確かめるいちばん確実な方法は、年輪を数えることです。幹に細い筒状の道具をねじ込み、中心まで届く棒状の試料を抜き取って、輪を一本一本数えていきます。木を切り倒さずに済むので、生きている木にも使えます。
この方法で年齢が確かめられた、1本の幹をもつ木として最古級とされるのが、アメリカ・カリフォルニア州東部のホワイト山地に立つ「メトシェラ」です。グレートベースン・ブリッスルコーンパインという松の一種で、名前は旧約聖書で969歳まで生きたとされる人物にちなみます。
1957年に研究者が採取した試料によると、芽生えは紀元前2833年ごろ。そのとおりなら、樹齢は4850年を超えます。ただし当時の試料の一部が残っておらず、後の研究者による再確認では、もう少し若い可能性も指摘されています。場所は保護のため公表されておらず、森の遊歩道沿いのどこかにある、とだけ伝えられています。
王座をうかがう候補もいます。2022年には、南米チリに立つアレルセ(パタゴニアヒノキ)の巨木が、推定5000歳を超えるかもしれないという研究が発表されました。ただ、幹が太すぎて中心まで試料が届かないため、周囲の木のデータを使った統計的な推定にとどまっています。
厳しい環境ほど長生きする
ブリッスルコーンパインが育つのは、標高3000メートルを超える乾いた山の斜面です。雨は少なく、冬は厳しく冷え込み、木が育てる季節はごく短い。成長は極端にゆっくりで、1年に刻まれる年輪はとても薄くなります。
意外なことに、この過酷さこそが長寿の秘密だと考えられています。ゆっくり育った材は緻密で樹脂を多く含み、腐朽菌や虫に強くなります。周りにほかの植物がまばらなので、山火事が燃え広がることもまれです。さらに、幹の大部分が枯れても、生き残った細い樹皮の帯だけで枝葉を養い続けることができます。白くねじれた枯れ木のような幹から、緑の枝が伸びている。古いブリッスルコーンパイン独特の姿は、生き延びるための工夫の跡でもあるのです。
切り倒された「プロメテウス」
実は、メトシェラより古かったかもしれない木がありました。ネバダ州の山中に立っていた、同じ種類の「プロメテウス」です。
1964年、氷河の痕跡を研究していた大学院生が、当局の許可を得てこの木を伐採しました。のちに年輪を数えると、少なくとも4862本。当時知られていた中で最も古い木だったとわかったのは、切り倒されたあとのことでした。この出来事は大きな議論を呼び、古い木を守ろうという機運を高めるきっかけになったといわれます。
根まで数えると、桁が変わる
「1本の木」の範囲を広げると、記録は一気に塗り替わります。代表的なのが、スウェーデン中部のフルフィエレット山に立つドイツトウヒ「オールド・ティコ」です。2004年に見つかり、発見した研究者が亡くした愛犬の名前をつけたといわれます。
見た目はひょろりとした細い木で、地上の幹は数百年ほどのものと考えられています。ところが、根元の土から見つかったこの木と遺伝的に一致する根などの断片を放射性炭素年代測定にかけたところ、約9500年前のものだとわかりました。幹が枯れても同じ根元から新しい幹が伸び、地面に触れた枝から根が出る。そうして同じ個体が、氷河期の終わりから命をつないできたと考えられているのです。
根でつながったクローンの仲間には、ユタ州のヤマナラシの林「パンド」のように、さらに古いと推定されるものもあります。年輪で確かめられる最古の幹か、根でつながった最古の命か。どちらを物差しにするかで、答えは数千年から数万年まで揺れ動きます。