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    「さよなら」の語源は?

    「左様ならば(そういうことならば)」の「ば」が省かれて、別れの挨拶として定着した言葉です。

    学校の帰り道、手を振りながら「さようなら」。卒業式や引っ越しのときには、少しさみしい響きをもって聞こえる言葉です。最近の大人どうしは「では、また」「お疲れさまです」と言うことが多く、「さようなら」はかえって改まった、重みのある言葉になってきました。

    この言葉、よく考えると不思議な形をしています。「おはよう」や「ありがとう」と違って、何かを祝ったり、感謝したりする意味がどこにも見当たりません。いったい、何を言っている言葉なのでしょうか。

    「左様ならば」の短縮形

    「さようなら」のもとの形は、「左様ならば(さようならば)」です。「左様(さよう)」は「そのよう」「そのとおり」という意味の言葉で、「然様」とも書きます。時代劇で家来が「さようでございます」と答える、あの「さよう」です。これに「ならば」がついて、「そういうことならば」「それならば」という意味になります。

    つまり「左様ならば」は、もともと話をつなぐための接続詞でした。江戸時代には、用事がすんで帰るときに「左様ならば、これにて失礼いたします」のように使われていたといいます。そのうち、後ろに続く「失礼します」が省かれ、さらに「ば」も落ちて、「さようなら」だけで別れを告げる言葉になりました。別れの挨拶として定着したのは、江戸時代の後期とされます。「さよなら」は、それをさらに縮めた言い方です。

    平安時代の「さらば」も同じ仕組み

    実は、これと同じ形の別れの言葉が、もっと古くからありました。時代劇でもおなじみの「さらば」です。

    御殿の縁側に座る貴族の男性と、室内の人々を斜め上から描いた平安時代の絵巻
    12世紀に描かれた国宝『源氏物語絵巻』より「鈴虫」の場面。出典: 作者不明(『源氏物語絵巻』、12世紀) / Public domain / Wikimedia Commons

    「さらば」は「然(さ)あらば」が縮まった言葉で、意味は「そうであるならば」。つまり「左様ならば」と同じです。平安時代の『源氏物語』にも、別れ際に「さらば」と言って立ち去る場面が出てきます。千年前の人も、私たちと同じように「それなら」と言って別れていたのです。

    「それでは」で別れる日本語

    ほかの日本語の別れの言葉を思い浮かべてみると、同じ形のものがたくさんあることに気づきます。「では」「じゃあ」「それでは」「それじゃ、またね」。どれも「それならば」と同じく、話をしめくくって次へ進むときの言葉です。

    世界の別れの言葉と比べると、その特徴がよくわかります。フランス語の「アデュー」やスペイン語の「アディオス」は「神のもとに」、つまり相手を神にゆだねる言葉です。中国語の「再見(ツァイチェン)」は「また会いましょう」という再会の約束です。それに対して日本語の「さようなら」は、祈りも約束も口にせず、ただ「そういうことならば」と、別れの事実を静かに受け入れます。

    「いちばん美しい別れの言葉」

    この「さようなら」に心を動かされた外国人がいます。1931年、夫のチャールズ・リンドバーグとともに飛行機で北太平洋を越え、日本を訪れたアメリカの作家アン・モロー・リンドバーグです。

    飛行帽とゴーグルをつけたチャールズとアンのリンドバーグ夫妻が、飛行機の操縦席から顔を出している白黒写真
    ロッキード・シリウス機の操縦席に座るチャールズ(左)とアン(右)のリンドバーグ夫妻。1931年の日本への飛行にも、このシリウス機が使われました。出典: KSAK:s tidning Flygrevyn / Public domain / Wikimedia Commons

    彼女はこの旅を記した本『翼よ、北に』の中で、文字どおりに訳せば「そうならなければならないなら」という意味のこの言葉こそ、これまで聞いた別れの言葉のなかでいちばん美しいと書きました。そのくだりの趣旨をまとめると、次のようになります。

    別れを惜しむ気持ちを言葉にしすぎず、手を握るように、ただ「さようなら」と言う。

    彼女が感じ取ったのは、多くを語らずに別れを受け入れる、そのつつましさだったのでしょう。毎日なにげなく使っている言葉が、外から見ると、とても詩的な響きをもっていたのです。

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