「ドンマイ」は和製英語?
英語の don't mind から生まれた言葉ですが、失敗した人を励ます使い方は日本独自のものです。
バレーボールでサーブがネットにかかったとき。野球でボールをとり損ねたとき。うつむく仲間に、チームのみんなが声をかけます。「ドンマイ、ドンマイ!」。気にするな、次がんばろう。たったひとことで、その場の空気がふっと軽くなります。
この「ドンマイ」は、英語の don’t mind がもとになった言葉です。それなら英語を話す人にも、そのまま通じるのでしょうか。実は、そう簡単にはいかないのです。
英語では励ましの決まり文句ではない
英語の mind には、「気にする」「いやだと思う」という意味があります。よく使われるのは、たとえば I don’t mind(私はかまわないよ)や Do you mind if I sit here?(ここに座ってもいいですか)といった言い回しです。
つまり I don’t mind は「自分は気にしない」「どちらでもいい」という意味で、失敗した相手を励ます言葉ではありません。相手に向けて「気にしないで」と言うなら、英語では Never mind や Don’t worry about it などが一般的です。スポーツの場面なら、Shake it off(引きずるな、振り払え)や Nice try(惜しかった)といった声がよく聞かれます。
Don’t mind him(彼のことは気にしないで)のように、何を気にしないのかを続ければ自然な英語になりますが、Don’t mind! とだけ叫ぶのは、励ましの決まり文句としては一般的ではありません。英語の単語を材料にしながら、意味と使い方は日本で育った。その意味で、「ドンマイ」は和製英語の仲間といえるでしょう。
1930年の辞書にもう載っていた
では、「ドンマイ」はいつごろから使われているのでしょうか。
国語辞典の『日本国語大辞典』は、この言葉を「スポーツの試合などで失敗して気落ちしている人を励ます時の掛け声」と説明し、早い例として1930年(昭和5年)の『アルス新語辞典』を挙げています。新しい言葉を集めた辞典に載っているということは、少なくとも昭和の初めには、ある程度知られた言葉だったと考えられます。戦後のスポーツブームで生まれた言葉のような気がしますが、実はもう100年近い歴史があるわけです。
辞書の説明が「掛け声」となっているのも、この言葉らしいところです。ドンマイは、じっくり語りかける言葉ではなく、試合の流れのなかでとっさにかける短い声として使われてきました。「ドンマイ、ドンマイ」と2回重ねることが多いのも、掛け声ならではのリズムでしょう。
ただし、誰がどんな場面で最初に使ったのかは、はっきりしていません。発音しやすいように don’t の t が落ちて「ドンマイ」という形になり、気軽な掛け声として広まっていったのでしょう。
スポーツとともにやってきた英語
ドンマイが生まれた背景には、明治から昭和の初めにかけて、さまざまな西洋のスポーツが日本に入ってきたことがあります。野球は、1872年ごろにアメリカ人教師ホーレス・ウィルソンが東京の学校で教えたのが始まりとされ、やがて学生たちの間で大人気になりました。
スポーツと一緒に、たくさんの英語の用語や掛け声も日本にやってきました。そのなかには、日本で使われるうちに形や意味が変わったものが少なくありません。英語の材料を日本流に組み合わせた言葉は、スポーツの世界にとくに多く見られます。ドンマイも、その代表的なひとつといえます。
いまでは「ドンマイ」は、スポーツの場だけでなく、ちょっとした失敗をした友だちや同僚への声かけとしても使われています。「気にするな」と日本語で言うよりも、どこか軽やかで、相手の気持ちを重くしない。そんな響きが、この言葉が長く愛されている理由なのかもしれません。
もし英語圏の友人がミスをして落ちこんでいたら、Don’t worry about it と声をかけてみてください。言葉は違っても、込める気持ちは「ドンマイ」と同じです。