「ピンからキリまで」の語源は?
カルタの札の呼び名から。ピンはポルトガル語の「点」、キリは「十字架」からとの説が有力です。
「ワインといってもピンからキリまである」「腕時計の値段はピンキリだ」。最上のものから最低のものまで、あるいは始めから終わりまでを表すのが「ピンからキリまで」です。最近は縮めて「ピンキリ」ともいいますね。
でも、ピンとキリとは、いったい何なのでしょうか。どちらもカタカナで書かれるのは、外国から来た言葉だと考えられてきたからです。その手がかりは、戦国時代にポルトガルから伝わった、あるカード遊びにあります。
南蛮渡来のカルタ
16世紀の半ば、ポルトガルの商人や宣教師が日本にやってくると、鉄砲やキリスト教とともに、さまざまな品物や言葉が伝わりました。パンやカステラ、タバコ、そしてカルタもそのひとつです。「カルタ」という言葉自体が、ポルトガル語でカードを意味する「carta」から来ています。
やがて日本でも、ポルトガルのカードをまねたカルタがつくられるようになりました。これがのちに**「天正(てんしょう)カルタ」**と呼ばれるものです。「天正」は1573年から1592年まで使われた年号で、ちょうどこのころの日本でカルタづくりが広まったと考えられています。4種類の札が12枚ずつ、合わせて48枚で一組になっていました。
この天正カルタでは、各種類の1の札を「ピン」、12の札を「キリ」と呼びました。つまり「ピンからキリまで」とは、もともと「1の札から12の札まで」、カルタの最初の札から最後の札まで、という意味だったと考えられています。
ピンはポルトガル語の「点」
「ピン」の語源は、ポルトガル語で「点」を意味する「pinta(ピンタ)」だとされています。カルタやサイコロの1は、点がひとつだけ。そこから、1の数を「ピン」と呼ぶようになったというわけです。
ピンという言葉は江戸時代には広く使われていて、1735年の浄瑠璃にも、サイコロの目の1を指す「ぴん」が出てきます。さらに、1から転じて「第一番」「最上のもの」という意味にもなりました。
ちなみに、人の取り分の一部をかすめとる「ピンはね」の「ピン」も、これと同じ言葉です。奉公人などが代金の1割をかすめとったことから来ているといわれます。
キリは「十字架」か「切り」か
一方の「キリ」には、大きく分けて二つの説があります。
ひとつは、ポルトガル語で十字架を意味する「cruz(クルス)」から来たという説です。十字架の形から「10」を意味するようにもなったとされ、多くの辞書がこの説を挙げています。
もうひとつは、日本語の「切り」から来たという説です。「これっきり」「区切り」のように、「きり」には終わりや限りという意味があります。カルタの最後の札だから「キリ」と呼んだと考えれば、すんなり説明がつきます。代表的な国語辞典の中にも、この和語の説も有力だと注記しているものがあります。
外来語として意識されてきたためにカタカナで書かれるものの、キリの正体はまだはっきりしていないのです。
幕末の芝居にも登場
「ピンからキリまで」という言い回しが使われた早い例として、河竹黙阿弥の歌舞伎『船打込橋間白浪(鋳掛松)』(1866年)のせりふが知られています。「ぴんからきりまで高下があるのよ」——上から下までいろいろある、という今と同じ使い方です。黙阿弥は、江戸の町の人々の話し言葉を生き生きとせりふに取りこんだ作者でした。このころには、すでに日常の言い回しとして通じていたのでしょう。
天正カルタは、やがて賭け事に使われることが多くなり、たびたび取り締まりの対象にもなりました。それでも札の呼び名は人々の言葉に残りました。カルタ遊びをしたことのない現代の私たちまで、ふだんの会話でピンやキリを口にしているのです。