「OK」はどこから来た言葉?
答え
「all correct」をわざと「oll korrect」とつづった略語、という説が有力です。
1839年
「OK」ほど、国境をやすやすと越えた言葉はそう多くありません。日本語の会話にも、空港のアナウンスにも、スマートフォンのボタンにも、当たり前のように顔を出します。けれども、これが何の略なのかと聞かれると、すぐに答えられる人は意外と少ないはずです。
実はこの小さな2文字の出自は、長いあいだ言語学者たちを悩ませてきた謎でした。そして明らかになった答えは、拍子抜けするほど遊び心にあふれたものだったのです。
1830年代ボストンの「わざと間違える」遊び
1830年代の終わりごろ、アメリカ・ボストンの新聞界では、奇妙な略語が流行していました。言葉の頭文字をとって略すだけでなく、わざと間違ったつづりにしてから略すのです。たとえば「no go(だめだ)」を「N.G.」、「all right」を「oll wright」とつづって「O.W.」と書く、といった具合です。読者が元の言葉を推理して面白がる、新聞上の内輪の冗談のようなものでした。
その流れのなかで、1839年3月23日の『ボストン・モーニング・ポスト』紙に「o.k.」が登場します。編集者チャールズ・ゴードン・グリーンによる冗談まじりの記事で、そこには「all correct」という説明が添えられていました。all correct を oll korrect とふざけてつづり、その頭文字をとったのが「o.k.」だったというわけです。
このいきさつを突き止めたのは、アメリカの言語学者アレン・ウォーカー・リードです。彼は当時の新聞を丹念に調べ上げ、1963年から64年にかけて学術誌『アメリカン・スピーチ』に一連の論文を発表しました。現在では、この説が最も有力なものとして広く受け入れられています。
大統領選挙が、流行語を定着させた
ただ、こうした略語の多くは、流行が過ぎると忘れられていきました。「O.W.」も「N.G.」も、いまでは誰も使いません。なぜ「OK」だけが生き残ったのでしょうか。
リードが注目したのは、翌1840年のアメリカ大統領選挙です。再選を目指した現職のマーティン・ヴァン・ビューレンは、ニューヨーク州キンダーフックの出身で、「オールド・キンダーフック(Old Kinderhook)」というあだ名を持っていました。支持者たちはその頭文字をとって「O.K.クラブ」を結成し、「O.K.」を合言葉のように使ったのです。
すでに「よろしい」という意味を持っていた言葉に、選挙のスローガンとしての勢いが重なったことで、「OK」は一気に全米に広まりました。ちなみにヴァン・ビューレン自身はこの選挙に敗れています。言葉だけが勝ち残ったというのも、なかなか皮肉な話です。
もっともらしい俗説たち
「OK」の語源には、ほかにもさまざまな説が語られてきました。アメリカ先住民チョクトー族の言葉で「そうだ」を意味する「okeh」から来たという説、西アフリカのウォロフ語に由来するという説、スコットランドの「och aye」から来たという説などです。
さらには、第7代大統領アンドリュー・ジャクソンが「all correct」を「oll korrect」と書き間違えたのが始まりだ、という話まであります。これは1840年の選挙戦で、対立陣営がジャクソンを教養のない人物として笑いものにするために広めたものと考えられています。
いずれも話としては魅力的ですが、裏づけとなる文献が見つかっておらず、言語学的には俗説とされています。語源の世界では、筋の通った物語ほど疑ってかかる必要がある、というよい例かもしれません。
冗談が世界語になるまで
その後「OK」は、電信の普及などとともに使われる場面を広げ、20世紀には英語圏の外にも広がっていきました。日本語でも「オーケー」はすっかりおなじみで、指で丸をつくるしぐさと一緒に使われることもあります。もとは記者たちの気の利いた冗談にすぎなかった言葉が、いまや多くの言語で通じる言葉になっているのです。わざと間違えたつづりから生まれた言葉が、いちばん間違いなく伝わる言葉になった。そう考えると、少し愉快な気持ちになります。