「おはよう」の語源は?
「早い」に丁寧の「お」がついた「お早く」が変化した言葉で、もとは相手の早さをねぎらう挨拶でした。
朝、家族と顔を合わせたとき、通学路で友だちに会ったとき、職場の扉を開けたとき。「おはよう」は、一日のいちばん最初に口にする言葉のひとつです。英語の「グッドモーニング」と同じように、朝の挨拶だと誰もが思っています。
ところが、この言葉の中身をよく見ると、「朝」という意味はどこにも入っていません。入っているのは「早い」です。いったい、何が早いのでしょうか。
「お早く」から「おはよう」へ
「おはよう」は、形容詞「早い」の連用形「早く(はやく)」に、丁寧さを表す「お」がついた「お早く」から生まれた言葉です。「はやく」の「く」が「う」に変わる音の変化(ウ音便)によって「はやう」となり、それが「はよう」と発音されるようになりました。
丁寧に言う「おはようございます」も、同じ仕組みでできています。もとの形は「お早くございます」で、「ございます」の前で同じように音が変化しました。「ありがたくございます」が「ありがとうございます」に、「おめでたくございます」が「おめでとうございます」になったのと、まったく同じ道筋です。
つまり「おはようございます」をそのまま訳すと、「早いですね」。朝の挨拶というより、相手の行動に向けた言葉だったのです。英語の「グッドモーニング」が「よい朝を」と朝そのものを祝うのとは、発想の出発点がずいぶん違います。
江戸時代は「お早いお着きで」
辞書に残る古い用例をたどると、この言葉の変化がよくわかります。17世紀の終わりごろの浄瑠璃には、「お早う」が、相手が早くやって来たことに対する挨拶として出てきます。「ずいぶんお早いお越しで」とねぎらうような使い方です。
それが、朝に人と会ったときの決まり文句として使われるようになるのは、江戸時代の後期とされます。19世紀前半の人情本には、いまと同じように朝の挨拶として使われた例が見られます。早起きして働きはじめた相手に「お早いですね」と声をかけるうちに、それが朝そのものの挨拶として定着していったのでしょう。
夜でも「おはようございます」の世界
いまでも「おはよう」の古い意味の名残を感じさせる場所があります。テレビや舞台などの芸能界、飲食店などでは、夕方でも夜でも、その日初めて顔を合わせた相手に「おはようございます」と挨拶することがよく知られています。
由来については、歌舞伎の楽屋で、先に入っていた人が後から来た役者に「お早いお着きで」と声をかけたのが始まりだという話や、不規則な時間に働く仕事では時刻に関係なく使える挨拶が便利だったからだ、という説明などがあり、はっきりしたことはわかっていません。
ただ、「早い」をねぎらう言葉という成り立ちを思い出すと、夜の「おはようございます」は決して不思議ではありません。むしろ、言葉のもとの意味にとても忠実な使い方だともいえるのです。
京都の「おはようおかえり」
方言の中にも、「おはよう」の「早い」が生きている言葉があります。京都などでは、出かける人を見送るときに「おはようおかえり(やす)」と声をかけることがあります。
これは朝の挨拶ではなく、「早くお帰りなさい」「無事に早く帰ってきてね」という意味です。「いってらっしゃい」の代わりに、相手の無事を願う気持ちを込めて使われてきました。最近はあまり聞かれなくなったといいますが、「おはよう」が本来は「早く」だったことを、いまに伝えてくれる言葉です。