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    「どうも」はもともとどういう意味?

    「どうしても」「なんだか」を表す副詞でした。「どうもありがとう」などが略され、あいさつになりました。

    エレベーターでドアを押さえてもらったら「あ、どうも」。久しぶりに会った知人には「やあ、どうもどうも」。うっかり人の足を踏んでしまったときも「どうも、すみません」。「どうも」は、日本語のなかでもとりわけ出番の多い言葉です。

    けれども、よく考えると不思議です。「ありがとう」なら感謝、「すみません」ならおわびと、はっきり意味があります。では「どうも」は、いったい何を言っているのでしょうか。その答えを探しに、言葉の来歴をさかのぼってみましょう。

    「どう」に「も」がついた言葉

    「どうも」は、「どう考えても」の「どう」に、助詞の「も」がついてできた言葉です。もともとは、あいさつではなく、ほかの言葉を修飾する副詞でした。

    古い使い方のひとつが、「どうも〜ない」という打ち消しの形です。「いろいろやってみても、どうしてもだめだ」という意味で、いまでも「何度やってもどうもうまくいかない」のように使います。『日本国語大辞典』は、室町時代の終わりから江戸時代の初めごろの狂言の台本に、この意味の「どうも」が登場する例を挙げています。

    上半分に崩し字の文章が書かれ、下に狂言の登場人物三人が描かれた木版画
    横山華山による、狂言の一場面を描いた19世紀の摺物(版画)。「どうも」の古い用例は、室町時代末ごろの狂言の台本にも見られます。出典: Yokoyama Kazan (Japan, 1784-1837) / Public domain / Wikimedia Commons

    「なんだか」「いやはや」の「どうも」

    江戸時代になると、「どうも」の使い道はぐっと広がります。

    ひとつは、「なんとも」「いやはや」と、言いようのない気持ちを表す使い方です。18世紀の笑い話の本には「どうもねむい」という一節が見られ、式亭三馬の滑稽本『浮世床』にも、あきれた気持ちを込めた「どうも」が出てきます。

    もうひとつは、「どうやら」「なんだか」と、はっきりしない推測を表す使い方です。「どうも雨になりそうだ」「どうも調子がおかしい」の「どうも」ですね。江戸時代後期の人情本にはすでに見られ、明治の夏目漱石の小説にも登場します。

    どの使い方にも共通しているのは、「うまく言い表せない」という気持ちです。どう考えても、どう言っても、ぴったりくる言葉が見つからない。「どうも」は、そんなもどかしさを背負った言葉だったのです。

    「どう言ったらいいか」が感謝になる

    この「言い表せない」という感覚が、やがてお礼やおわびと結びつきます。「どうもありがとう」は、「どう申し上げたらいいかわからないほど、ありがとう」という気持ちを表す言い方です。「どうもすみません」も同じで、言葉では言い尽くせないほど申し訳ない、という意味になります。

    明治時代の坪内逍遙の小説『当世書生気質』(1885〜86年)には、待たせた相手に「いやどうも」とおわびをする場面があります。この時代には、感謝やおわびに添える「どうも」がすっかり定着していたようです。

    洋風の建物の前に集まった大勢の聴衆と、正面で演説する人物を写した白黒写真
    1928年、早稲田大学の演劇博物館の前で演説する坪内逍遙。小説『当世書生気質』には、おわびの「どうも」が登場します。出典: 早稲田大学大学史編集所 『都の西北 建学百年』 早稲田大学、1982年 / Public domain / Wikimedia Commons

    後ろを省いて、あいさつに

    そして、ここからが面白いところです。「どうもありがとう」の「ありがとう」、「どうもすみません」の「すみません」を省いて、「どうも」だけで済ませる使い方が生まれました。

    尾崎紅葉の小説『多情多恨』(1896年)には、「先日は如何(どう)も」というせりふが出てきます。先日はお世話になりました、なのか、失礼しました、なのか。肝心なところは言わずに、「どうも」だけで気持ちを伝えています。明治の半ばにはもう、いまと同じような「どうも」のあいさつが使われていたわけです。

    感謝なのか、おわびなのか、ただのあいさつなのか。言わなくても、場面と表情で伝わる。だからこそ「どうも」は、気軽で便利なひとことになったのでしょう。「言い表せない」ことを表す言葉が、いつの間にか「言わなくても通じる」言葉になった。そう考えると、「どうも」の歩んできた道は、なかなか味わい深いものがあります。

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