「アルバイト」はドイツ語?
はい。ドイツ語の Arbeit(労働・仕事)が語源で、戦前の学生言葉として使われ始めました。
「今日はバイトがあるから先に帰るね」。学生どうしの会話で、毎日のように飛びかう言葉です。「バイト」は「アルバイト」を縮めた形で、本業や学業のかたわら、収入を得るために働くことを指します。あまりに日常的なので、外来語だと意識することさえ少ないかもしれません。
カタカナ語の多くは英語から来ていますが、「アルバイト」は違います。もとをたどると、ドイツ語に行き着くのです。しかも、ドイツの人に「アルバイトをしています」と言っても、日本と同じ意味には受け取られないかもしれません。
ドイツ語の Arbeit は「仕事」全般
語源は、ドイツ語の Arbeit(アルバイト) です。意味は「労働」「仕事」「作業」。働くこと全般を表す、ごく基本的な単語です。
ドイツ語の Arbeit は、学問の世界でもよく使われます。研究や論文のことも Arbeit と呼び、博士論文は Doktorarbeit といいます。日本語の辞書にも、「学問上の作業」「研究業績」という意味がちゃんと載っています。
一方、日本で言うような「学業や本業のかたわらの短時間の仕事」は、ドイツ語ではふつう Nebenjob(副業)などと呼ばれます。日本語の「アルバイト」は、ドイツ語の単語を借りながら、意味の範囲をぐっと絞りこんだ言葉なのです。
旧制高校生とドイツ語の学生言葉
では、なぜ英語ではなくドイツ語だったのでしょうか。
明治時代の日本は、医学をはじめとするさまざまな学問を、ドイツから熱心に学びました。大学や、そこへ進む若者が学んだ旧制高等学校でもドイツ語の授業が重んじられ、ドイツ語は学生たちにとって身近な外国語でした。
そうした学生たちの間では、ドイツ語を交えた独特の言葉づかいが生まれました。お金のことを Geld(ゲルト)から「ゲル」、食事を essen(食べる)から「エッセン」、少女を Mädchen から「メッチェン」と呼ぶ、といった具合です。国語辞典にも、「ゲル」や「エッセン」は学生の言葉だったと記されています。「アルバイト」も、こうした流れのなかで使われるようになった言葉と考えられています。
「労働」から「学生の副業」へ
『日本国語大辞典』によると、「アルバイト」は1921年(大正10年)の新語辞典に、まず「労働」「仕事」という意味で載っています。学生の副業や内職という意味で使われた例としては、1934年(昭和9年)の旅行雑誌の文章が挙げられています。大正から昭和の初めにかけて、言葉の意味が少しずつ日本流に変わっていったことがうかがえます。
戦前の学生の「アルバイト」は、一部の苦学生のものでした。学費や生活費をまかなうために、新聞配達や家庭教師などをして働く学生たちです。それ以前は、こうした仕事は「内職」と呼ばれるのがふつうでした。
この言葉が一気に広まったのは、第二次世界大戦の直後です。暮らしが苦しく、学業を続けられない学生が増えるなかで、大学や国も学生に仕事を紹介するようになりました。どこか新しく、知的な響きのある「アルバイト」という言葉は、こうした時代に流行して定着したとされています。
その後、高度経済成長期を経て大学に進む人が増えると、アルバイトは苦学生だけのものではなくなりました。文部省(当時)の調査によると、1970年代にはアルバイトをする学生の割合が8割を超えました。いまでは学生に限らず、短時間で働く人の雇用形態を表す言葉としても使われています。
ちなみに、お隣の韓国でも「アルバイト(아르바이트)」という言葉が使われていて、若い人たちは「アルバ(알바)」と略します。日本語を経由して入った言葉とされ、日本の「バイト」とは縮め方が逆なのが面白いところです。