世界最古の地図は?
「世界」を描いた最古の地図は約2600年前のバビロニアの粘土板とされます。地図全般なら諸説あります。
スマートフォンを開けば、世界中のどんな場所でも、空から見下ろした地図をすぐに確かめられる時代です。けれども、地図というのは考えてみると不思議な道具です。誰も空を飛べなかった時代から、人は頭の中で土地を真上から思い描き、それを平らな面に写し取ってきたのですから。
では、現存する世界最古の地図はどれなのでしょうか。この問いの答えは、実は「地図」という言葉をどう考えるかによって変わってきます。
手のひらにのる「世界地図」
「世界」全体を描こうとした地図として、最古のものとされているのが、ロンドンの大英博物館に収められている「バビロニアの世界地図」です。現在のイラク南部にあった古代都市シッパルで見つかった粘土板で、紀元前6世紀ごろ、いまから約2600年前のものと考えられています。もとになった図はさらに古い時代にさかのぼる可能性も指摘されています。
大きさは縦12cmほどで、手のひらにすっぽり収まります。表面には、くさび形文字の文章とともに、いくつかの円と線が刻まれています。
中央近くの長方形はバビロンの都で、そこを縦に貫く線はユーフラテス川を表すと考えられています。そのまわりにはアッシリアなどの土地が配置され、全体を大きな円が取り囲んでいます。この円は、陸地のまわりを流れると信じられていた「苦い川」、つまり海です。
世界の果ては神話の国
この地図の面白いところは、海の外側にあります。円の外には三角形がいくつも突き出していて、粘土板の文章は、そこが太陽の見えない土地や、鳥でさえたどり着けない遠い場所であることを語っています。
つまり、この地図は正確な距離や方角を記録するためのものではありませんでした。自分たちの都を中心に置き、その外に知っている国々を並べ、さらにその向こうに神話や伝説の世界を思い描く。古代のバビロニアの人々がどんな**「世界観」**を持っていたのかを、そのまま形にしたものだったのです。
もっと古い地図の候補たち
一方、特定の地域や町を描いた地図であれば、もっと古いものがあります。
メソポタミアでは、粘土板に描かれた地図がいくつも見つかっています。イラク北部のヌジ遺跡から出土した粘土板は、紀元前2300年ごろのものともいわれ、川や山、集落らしきものが刻まれています。また、古代都市ニップルの遺跡からは、紀元前1500〜1300年ごろの粘土板に描かれた町の地図が見つかっており、城壁や門、神殿などが描かれていることから、最古の都市図のひとつとされています。
さらにさかのぼると、候補はぐっと不確かになります。トルコの新石器時代の遺跡チャタル・ヒュユクでは、8000年以上前の壁画が、家並みと噴火する火山を描いた「地図」ではないかと考えられたことがありました。しかし、ヒョウの毛皮の模様を描いたものだという反論もあり、決着はついていません。フランスでは2021年、約4000年前の青銅器時代の石板が、ヨーロッパ最古の地図だとする研究が発表され、話題になりました。
「地図」とは何か
壁画や岩に刻まれた線が地図かどうかを見分けるのは、とても難しい作業です。描いた人がもういない以上、それが土地を表したものなのか、模様なのか、別の何かなのかを、確実に知ることはできないからです。
最古の地図を探すことは、「どこからを地図と呼ぶか」を決めることでもある。
確かなのは、文字が生まれてまもない時代から、人は自分の暮らす土地や、その向こうに広がる世界を描こうとしてきた、ということです。