爪は1日にどれくらい伸びる?
手の爪は1日に約0.1ミリ、1か月で3ミリあまり。足の爪はその半分ほどの速さです。
3.5mm
爪を切るのは、どれくらいのペースでしょうか。1週間に1回という人もいれば、気づいたら伸びていて慌てて切る、という人もいるでしょう。毎日見ているはずなのに、爪が伸びていく瞬間を目にすることはありません。
それもそのはずで、手の爪が1日に伸びるのは、わずか0.1ミリほど。紙1枚の厚さくらいです。このかすかな変化を、驚くほどの根気で測り続けた人たちのおかげで、爪の伸び方にはいくつもの法則が見えてきました。
爪は皮膚の下で作られている
爪の正体は、ケラチンというたんぱく質でできた硬い板です。髪の毛や、動物のひづめや角とも同じ仲間の素材です。
爪を作っているのは、目に見えている部分ではありません。爪の付け根の皮膚の下に、爪母(そうぼ)と呼ばれる場所があり、ここで新しい細胞が次々と生まれています。生まれた細胞は硬くなりながら、先に作られた部分を前へと押し出していきます。つまり爪は、根元から少しずつ押し出されて「伸びて」いるのです。
爪の付け根に見える白っぽい半月形の部分は、爪半月(そうはんげつ)といい、爪母の一部が透けて見えているものです。目に見える爪の板そのものは、すでに生きた細胞ではありません。爪を切っても痛くないのはこのためです。
足の爪は手の半分の速さ
では、実際にはどれくらいの速さなのでしょうか。2010年に発表されたアメリカの研究では、健康な若い大人22人が、爪の付け根近くにやすりで印をつけ、1〜3か月後にその印がどれだけ移動したかを記録しました。
その結果、手の爪は1か月に平均約3.47ミリ、足の爪は約1.62ミリ伸びていました。足の爪は、手の爪の半分ほどの速さしかないのです。また、手の指の中では小指の爪がほかより遅く、足では親指の爪が速いこともわかりました。右手と左手のあいだには、はっきりした差は見られませんでした。研究チームは、何十年も前の推定より、伸びる速さが増しているとも報告しています。
爪の先まですっかり生え変わるには、手の爪で3〜6か月ほど、足の爪では1年から1年半ほどかかるとされています。
35年間、親指の爪を測り続けた医師
爪の伸び方について、とびきり息の長い記録を残したのが、アメリカの内科医ウィリアム・ビーンです。
ビーンは、太平洋戦争が始まる前の月にあたる1941年11月ごろから、自分の爪の付け根近くに小さな傷をつけ、それが先端へ移動して消えるまでの日数を測るようになりました。1980年に医学誌に発表した報告のタイトルは「爪の成長:35年間の観察」。左手の親指の爪は、32歳のころには1日平均0.123ミリ伸びていましたが、67歳では0.095ミリになっていました。年を取るにつれて、爪の伸びはゆっくりになっていったのです。
ビーンはまた、おたふくかぜやはしかにかかったときに伸びが遅くなったことも書き残しています。この地道な研究には、本人が亡くなってから36年後の2025年、イグ・ノーベル賞の文学賞が贈られました。
爪に刻まれる「体の記録」
爪がほぼ一定の速さで伸びることは、意外なところで役に立ちます。
高い熱が出る病気や大けがなどで、体に大きな負担がかかると、爪母で細胞を作るはたらきが一時的に弱まることがあります。すると爪の表面に、横向きの溝ができます。この溝は、1846年に初めて報告したフランスの医師の名にちなんで「ボー線(ボーの線)」と呼ばれています。
溝は、爪が伸びるにつれて少しずつ先端へと移動していきます。手の爪が1日に0.1ミリほど伸びるとすると、付け根から1センチ先にある溝は、およそ3か月前にできたものと見当がつきます。爪は、体に起きた出来事を刻みながら伸びる、小さな記録帳でもあるのです。