月にも地震がある?
あります。アポロ計画の地震計が、1977年までに1万回を超える「月震」を記録しました。
55分
夜空にかかる月は、いつ見ても同じ顔で、じっと動かない岩のかたまりのように思えます。地球のようにプレートが動いているわけでもなく、火山が噴火しているわけでもありません。地震とは無縁の世界だと考えても、不思議はないでしょう。
ところが実際には、月の大地もときどき揺れています。それが「月震(げっしん)」です。しかも月の揺れには、地球の地震とはまるで違う、ちょっと不思議な性質がありました。
宇宙飛行士が置いてきた地震計
月の揺れを初めてとらえたのは、アポロ計画の宇宙飛行士が月面に置いてきた地震計です。1969年7月、アポロ11号のバズ・オルドリンが、人類初の月面地震計を設置しました。その後、アポロ12号、14号、15号、16号も次々に地震計を置き、月面には複数の観測点を結ぶ観測網ができあがります。
この観測網は、1977年9月30日に運用を終えるまで、地球へデータを送り続けました。その間に記録された揺れは、1万2000回を超えるとされています。月は「死んだ星」どころか、意外なほどよく揺れていたのです。
月の揺れは4種類
記録を調べた研究者たちは、月震をおもに4つの種類に分けました。
まず、地下およそ700〜1100キロメートルという、とても深い場所で起きる「深発月震」。規模はごく小さいものの、月が地球のまわりを回るリズムに合わせて、同じ場所でくり返し起きていました。地球の重力が月を引っぱり、わずかに伸び縮みさせる力、つまり潮の満ち引きを起こすのと同じ力が、引き金になっていると考えられています。
2つめは「熱月震」です。月の昼と夜はそれぞれ約2週間続き、赤道付近では昼と夜の温度差が250℃ほどにもなります。長い夜のあとに太陽が昇ると、冷えきった地表の岩が急に温められ、膨張してきしむように揺れるのです。
3つめは、隕石がぶつかって起きる揺れです。空気のない月には、小さな隕石が燃え尽きることなく、そのまま地表に激突します。
そして4つめが、比較的浅いところで起きる「浅発月震」です。観測期間中に見つかったのは28回だけですが、なかにはマグニチュード5を超えるものもあり、10分以上揺れが続いたとされます。月は内部が冷えるにつれて少しずつ縮んでいて、その影響で地殻がずれ動いていることが原因のひとつと考えられています。NASAによると、月の直径はここ数億年で50メートルほど小さくなったと見積もられています。
鐘のように鳴りやまない
月震の研究者たちを最も驚かせたのは、揺れの長さでした。
1969年11月20日、アポロ12号の宇宙飛行士たちは、役目を終えた月着陸船の上昇段を、わざと月面に落としました。どんな揺れが起きるかを確かめるための実験です。すると月面の地震計は、55分以上にわたって揺れを記録し続けました。揺れは8分ほどかけてじわじわと大きくなり、そこから長い時間をかけて、ゆっくりと消えていったのです。その様子は、まるで鐘をついたあとの響きのようだと表現されました。
地球の地震なら、大きな揺れでもふつうは数分ほどで収まります。月の揺れがこれほど長引くのは、月の岩石がからからに乾いているためだと考えられています。地球の岩石にはわずかな水が含まれていて、それが振動のエネルギーを吸い取るブレーキの役目を果たしています。ところが水のない月の岩石では、揺れがなかなか弱まりません。さらに、隕石の衝突で細かく砕かれた表面の層の中で、波があちこちに跳ね返りながら長く響き続けるのです。
将来、月面に基地をつくるときには、こうした揺れへの備えも必要になるでしょう。月震の研究は、半世紀前のデータを読み解きながら、いまも続いています。