月の足跡はいつまで残る?
風も雨もないので長く残りますが、永遠ではありません。小さな隕石が砂をかき混ぜ、数万年ほどで消えていく可能性があります。
81,000年
1969年7月20日、アポロ11号のニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン飛行士が、人類として初めて月面を歩きました。それから1972年のアポロ17号まで、合わせて12人が月の上に足跡を残しています。
月には空気がほとんどなく、風も吹かなければ雨も降りません。そのため、「月の足跡は何百万年も残る」とよくいわれます。本当に、それほど長く残るのでしょうか。
砂の性質を調べるための1枚
アポロ11号の足跡の写真として有名なのが、くっきりとした靴底の模様が残る1枚です。これは記念写真ではなく、オルドリン飛行士が月の砂の性質を調べる実験の一環として、自分の足跡を撮影したものでした。
月の表面は「レゴリス」と呼ばれる細かい砂やちりに覆われています。粒の半分ほどは直径0.06ミリより小さく、すき間が多いので、踏むとぎゅっと押し固められます。オルドリン飛行士の足跡の深さは2.5センチほど。細かい粒がしっかりと形を保ち、靴底のみぞまでくっきり写しとっています。
50年たっても、足跡は見えている
アポロの足跡は、いまも月面に残っています。2009年から月を回っているNASAの探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」は、アポロの着陸地点を上空から撮影し、着陸船の一部や観測装置とともに、飛行士たちが歩いた跡を黒っぽい筋としてとらえました。
2011年には、ふだん高度50キロメートルほどを回っているLROが、高度21キロメートルまで降りて撮影し、アポロ12号、14号、17号の着陸地点で、飛行士の歩いた道筋や月面車のわだちがいっそうはっきり見えるようになりました。アポロ11号の着陸地点でも、アームストロング船長が着陸船から東へ60メートルほど離れた小さなクレーターまで歩いた跡が見えています。
月の砂は、ゆっくりかき混ぜられている
では、足跡は永遠に残るのでしょうか。月には風や雨はありませんが、足跡を消す力がまったくないわけではありません。空気がないぶん、宇宙から飛んでくる小さな隕石が燃え尽きることなく、そのまま月面に降り注いでいるのです。その衝突で表面の砂は少しずつかき混ぜられていきます。
これまでは、表面の砂が入れかわるには1000万年ほどかかると考えられてきました。何百万年も足跡が残る、という話は、こうした見積もりにもとづいたものといえます。
ところが2016年、アメリカのアリゾナ州立大学などの研究チームが、LROが同じ場所を時間をおいて撮影した1万4000組あまりの画像を比べたところ、新しくできたクレーターが222個も見つかりました。さらに、衝突で飛び散ったかけらがつくる小さな乱れも数多く見つかり、これらを合わせると、表面から2センチほどの砂は、約8万1000年でほぼすべて入れかわると見積もられました。それまでの考えより100倍以上速いペースです。
深さ2.5センチほどの足跡にとって、これは無視できない数字です。隕石の衝突は場所によってばらつきがあるので、早く消える足跡もあれば、長く残る足跡もあるでしょう。それでも、何百万年どころか、数万年ほどで少しずつ薄れていく可能性があるのです。人間の歴史からみればとても長い時間ですが、永遠ではありません。
足跡を守るルールも
月の足跡を消してしまうかもしれないのは、隕石だけではありません。これから月へ向かう探査機や宇宙船が、着陸のときのエンジンの噴射で砂を吹き飛ばすおそれもあります。
そこでNASAは2011年、アポロの着陸地点に近づく際の注意点をまとめた勧告を発表しました。アメリカでは2020年12月、アポロの着陸地点を守るための法律も成立し、月での活動についてアメリカ政府の許可を受ける企業などに、この勧告に従うよう求めています。