月の裏側はなぜ見えない?
月は1回自転する間に、ちょうど地球を1周するから。いつも同じ面を地球に向けています。
59%
日本ではウサギの餅つき、ヨーロッパでは人の顔やカニ。月の模様は国によってさまざまに見立てられてきましたが、どの国の人々も、実は同じ模様を見ています。満月でも半月でも、月はいつも同じ面を地球に向けているからです。
では、月は自転していないのでしょうか。答えは逆で、月はきちんと自転しています。ただ、その回り方があまりにもぴったりなのです。
自転と公転が、ぴったり同じ
月は約27.3日かけて地球のまわりを1周します。そして、月が自分の軸を中心に1回転するのにかかる時間も、同じく約27.3日。公転と自転の周期がそろっているため、月は地球のまわりを回りながら、常に同じ面をこちらへ向け続けます。
イメージしにくければ、部屋の真ん中に置いた椅子のまわりを、椅子に顔を向けたまま1周歩いてみてください。椅子から見れば、あなたはずっと正面を向いています。けれども部屋の壁から見ると、あなたは1周する間に、ちょうど1回転していることがわかります。
これは偶然ではありません。生まれたばかりのころの月は、今よりも速く自転していたと考えられています。ところが地球の強い重力は、月の体をわずかに地球の方向へ引き伸ばします。月が自転するとこの膨らみが地球の方向からずれ、地球の引力がそれを引き戻すように働いて、自転にブレーキがかかります。長い時間をかけて自転は遅くなり、やがて膨らみが常に地球を向く、今の状態に落ち着きました。これを「潮汐固定」、あるいは「同期自転」と呼びます。
裏側は「暗黒面」ではない
月の裏側は、英語で「ダークサイド」と呼ばれることがあります。けれども、裏側がいつも暗いわけではありません。月の昼と夜は、太陽の光の当たり方で決まります。地球から見て月が真っ暗になる新月のとき、太陽の光を浴びているのは、ちょうど裏側のほうなのです。この「ダーク」は、暗いというより「よく知られていない」という意味で受け取るのがよさそうです。
厳密にいうと、地球から見える月面は、ちょうど半分ではありません。月の軌道がわずかに楕円であることや、月の自転軸が少し傾いていることなどから、月は地球から見て、首を振るように少しずつ揺れて見えます。この見かけの揺れを「秤動(ひょうどう)」といいます。
秤動のおかげで、時期を変えて観察すれば、縁の向こう側を少しだけのぞき込むことができます。その結果、地球から見ることのできる月面は、全体の約59%。残りの約41%は、地上からはどうやっても見えません。
初めて見た裏側は、別の顔をしていた
人類が初めて月の裏側を目にしたのは、1959年のことです。旧ソ連の探査機ルナ3号が撮影した、ぼんやりとした写真でした。人間が自分の目で裏側を見たのは、1968年に月を周回したアポロ8号の飛行士たちが最初です。
明らかになった裏側の姿は、表側とはまるで違っていました。表側でウサギの模様をつくっている暗い部分は「海」と呼ばれ、溶岩が流れ出して固まった平らな土地です。表側では面積の3割ほどを海が占めるのに対し、裏側の海はわずか1%ほど。裏側はほとんどが、クレーターに覆われた明るい高地なのです。
その原因としては、裏側の地殻が表側よりかなり厚く、溶岩が地表まで出てきにくかったためと考えられています。ただ、なぜ表と裏で厚さに差が生まれたのかは、今も研究が続いている謎です。
電波の届かない場所へ
地球から直接見えないということは、地球と直接通信ができないということでもあります。そのため、月の裏側に探査機を着陸させるのは簡単ではありませんでした。
2019年、中国の嫦娥(じょうが)4号が、通信を中継する衛星を別に打ち上げることでこの壁を越え、史上初めて月の裏側への着陸に成功しました。さらに2024年には嫦娥6号が、裏側の岩石や砂を初めて地球へ持ち帰っています。何千年も見えなかった月のもう半分の顔は、いま急速に素顔を明かしつつあります。