地平線近くの月はなぜ大きく見える?
実際の大きさは変わらない、目の錯覚です。ただ、なぜ錯覚が起きるのかは、まだ決着していません。
0.5度
夕方、東の空の低いところに昇ってきた満月が、びっくりするほど大きく見えた。そんな経験がある人は多いでしょう。思わずスマートフォンで撮ってみたのに、画面の中の月は小さな白い点にすぎず、がっかりした人もいるかもしれません。
地平線近くの月が大きく見えるこの現象は「月の錯視」と呼ばれます。古代ギリシアの時代から記録が残る、とても古い謎です。
月の大きさは変わっていない
まず確かめておきたいのは、昇ったばかりの月も、空高くにある月も、目に映る大きさは同じだということです。月の見かけの大きさは、角度にしておよそ0.5度。腕をいっぱいに伸ばして持った5円玉の穴に、ほぼ収まるくらいの大きさです。同じ硬貨で地平線の月と空高くの月を隠してみれば、どちらもぴったり隠れることがわかります。
実は、地平線近くの月のほうが、わずかに小さいくらいです。真上近くにある月に比べて、見ている人からの距離が地球の半径ぶんほど遠くなるためで、その差は約1.5%。さらに地平線近くでは、大気による光の屈折で、月は上下に少しつぶれて見えます。それでも私たちには、大きく見えてしまうのです。スマートフォンで撮った月が小さく写るのは、カメラがありのままの大きさを記録しているからです。私たちの目に映っている月も、実はあれと同じ大きさなのです。
2000年来の謎
月の錯視については、紀元前4世紀のアリストテレスや、2世紀の天文学者プトレマイオスも書き残しています。昔は、地平線近くの厚い空気が月を大きく見せるのだ、という説明がよく唱えられました。しかし、写真や測定器で確かめても月の大きさは変わりません。そのため現在では、目と脳がつくり出す錯覚だと考えられています。11世紀のアラビアの学者イブン・アル=ハイサムは、すでに、見かけの距離の違いが関わっているという考えを示していました。
では、脳はなぜ月を大きく感じてしまうのでしょうか。有力な説のひとつが「見かけの距離説」です。私たちの脳は、目に映る大きさが同じでも、遠くにあると感じたものは「実際には大きいはずだ」と補って受け取ります。地平線近くの月は、建物や山、遠くまで続く地面の向こうにあるため、とても遠くにあるように感じられます。そのため脳が、月の大きさを大きめに見積もってしまうというわけです。1962年には、アメリカの心理学者ロイド・カウフマンとアーヴィン・ロックが、地面の景色のような距離の手がかりが、錯視に大きく関わっていることを実験で示しました。
線路の錯視とそっくり
この説明は、「ポンゾ錯視」とよく似た仕組みです。線路のように奥へ向かってすぼまっていく2本の線の間に、同じ長さの横線を上下に置くと、奥にあるように見える上の線のほうが長く感じられます。
ただ、見かけの距離説にもすっきりしない点があります。地平線の月について人に尋ねると、大きく見えるだけでなく、むしろ近くに見えると答える人が多いのです。ほかにも、すぐそばに見える木や建物との比較で月が大きく感じられるという説などがあり、どれか一つの説に決着はついていません。
この錯視は、月だけのものではありません。地平線近くの太陽や星座も、同じように大きく感じられます。夕日が大きく見えるのも、同じ現象です。紙を丸めた筒を通して、まわりの景色を隠して月だけをのぞくと、大きく見える感じが弱まるという人も多いので、今度大きな月を見かけたら試してみてください。