金属はなぜ木より冷たく感じる?
金属のほうが手の熱をすばやく奪うからです。温度そのものは、同じ部屋なら木と変わりません。
2000倍
寒い朝、公園の鉄棒を素手で握ると、思わず手を離したくなるほど冷たく感じます。ところが、すぐ横にある木のベンチに触っても、それほど冷たくはありません。家の中でも、金属のドアノブはひやっとするのに、木の扉はそうでもない。誰もが経験していることでしょう。
だから金属は木より冷えている、と考えたくなります。でも実は、同じ場所に長く置かれていれば、金属も木も温度はほとんど同じなのです。
同じ温度なのに、違って感じる
部屋の中に長いあいだ置いてあるものは、空気と熱をやりとりするうちに、やがて部屋と同じ温度に落ち着きます。室温が20℃なら、金属のスプーンも木のお箸も、ほぼ20℃です。温度計を当てれば、どちらも同じ値を示すはずです。
それでも冷たさの感じ方が違うのは、私たちの皮膚が、触れた物の温度そのものを測っているわけではないからです。皮膚が感じているのは、自分の熱がどれくらいの勢いで逃げていくか、その結果として皮膚の温度がどれだけ下がったか、ということです。手の表面はおよそ30℃台なので、20℃の物に触れれば、熱は手から物へと流れていきます。
熱を運ぶ速さが桁違い
熱の逃げる勢いを左右するのが、物の「熱の伝えやすさ」、つまり熱伝導率です。常温での値を比べると、銅は約400、アルミニウムは約240、鉄は約80。これに対して、ガラスは1前後、マツの木はわずか0.1ほどしかありません(単位はW/m·K)。アルミニウムは木のおよそ2000倍、銅なら3000倍以上も熱を伝えやすいのです。
金属の中には、自由に動き回れる電子がたくさんあり、これが熱をすばやく運びます。そのため金属に触ると、手から流れ込んだ熱はどんどん奥へ運ばれていき、触れている部分はなかなか温まりません。手は熱を奪われ続けるので、冷たく感じるのです。
一方、木は熱をほとんど奥へ運びません。手から受け取った熱は表面にとどまり、触れた部分はすぐに手の温度に近づきます。熱の流れがすぐに弱まるので、冷たさをあまり感じないのです。木の中にたくさんある小さなすき間に、熱を伝えにくい空気が閉じこめられていることも、これを助けています。
氷が早く溶けるのはどっち?
この仕組みをはっきり確かめられる、おもしろい実験があります。室温に置いておいたアルミニウムの板とプラスチックの板を用意し、それぞれの上に氷をのせるのです。
触ってみると、アルミニウムの板のほうがずっと冷たく感じます。ところが氷を置くと、驚いたことに、先に溶けていくのはアルミニウムの板の上の氷です。アルミニウムは周りの熱をすばやく氷へ送り込むので、氷はみるみる溶けていきます。プラスチックの上の氷は、なかなか溶けません。
「冷たく感じる」ことと「冷えている」ことは別のこと。冷たく感じる金属は、実は熱を運ぶのが得意な物だったのです。
サウナで木のベンチに座れる理由
同じ仕組みは、逆向きにも働きます。フィンランド式のサウナでは、室温が80〜100℃ほどになることもあります。それでも人が素肌で座っていられるのは、ベンチが木でできているからです。
木は熱をゆっくりしか伝えないので、肌に触れた部分はすぐに少し冷めて、肌に流れ込む熱は少なくてすみます。もし同じ温度の金属のベンチだったら、熱がどんどん肌に流れ込み、たちまちやけどをしてしまうでしょう。サウナのベンチでは、釘などの金具が肌に触れないよう、裏側から留めるといった工夫がされていることが多いのも、そのためです。
フライパンや鍋の取っ手に木や樹脂が使われているのも、同じ理由です。熱い物、冷たい物を扱う道具には、熱の伝えやすさの違いが、さりげなく生かされています。