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    モナ・リザに眉毛がないのはなぜ?

    はっきりとはわかっていません。もとは描かれていたが洗浄などで消えた、という説があります。

    パリのルーヴル美術館で、いつも人だかりの向こうに微笑んでいる『モナ・リザ』。縦77センチ、横53センチほどのポプラ板に描かれたこの絵は、おそらく世界でいちばん多くの人に見つめられてきた肖像画です。

    ところが、その顔を間近でよく見ると、不思議なことに気づきます。眉毛がないのです。まつ毛も見当たりません。あれほど細部にこだわったレオナルド・ダ・ヴィンチが、眉を描き忘れたのでしょうか。

    「眉毛は見事だった」という証言

    話をややこしくしているのが、16世紀の画家で伝記作家のジョルジョ・ヴァザーリが残した記述です。ヴァザーリは『美術家列伝』のなかでこの肖像を絶賛し、眉毛についても、毛が肌から生えてくる様子が場所によって濃く、あるいはまばらに描かれ、これ以上ないほど自然だ、という意味のことを書いています。

    眉毛のないモナ・リザの顔と上半身を正面近くから見た図
    レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』(1503年ごろ〜、ルーヴル美術館所蔵)の顔の部分。額から目もとにかけて、眉毛もまつ毛も見当たりません。出典: Leonardo da Vinci / Public domain / Wikimedia Commons

    ただし、ヴァザーリ自身はこの絵を実際には見ていなかったと考えられています。レオナルドは晩年にこの絵をフランスへ持っていき、ヴァザーリはフランスを訪れたことがなかったからです。彼の記述は人づての話をもとにしたものとみられ、そのまま証拠にはできません。それでも「本来は眉毛があったのでは」という想像をかきたてるには十分でした。

    高解像度スキャンが見つけた「一本の毛」

    この謎に新しい手がかりをもたらしたのが、フランスの技術者パスカル・コットです。コットは独自に開発した高精細カメラで『モナ・リザ』を撮影し、紫外線や赤外線を含む13の波長の光を使って、約2億4000万画素の画像を得ました。

    2007年に発表された分析によると、左の眉のあたりに、毛を一本描いたような筆の跡が見つかったといいます。コットはこれを、レオナルドがもともと眉毛やまつ毛を描いていた証拠だと考えました。

    では、なぜ消えてしまったのか。コットは、顔料が時とともに薄れた可能性や、過去の修復や洗浄の際に取り除かれてしまった可能性を挙げています。眉やまつ毛はごく細い筆で、薄い絵の具を重ねて描かれていたと考えられ、表面を少しこすっただけでも失われやすい部分です。目の周りでは、ひび割れの様子がほかとわずかに違って見えることも、誰かが手を入れた跡ではないかとされています。

    ほかにもある、いくつかの説

    もっとも、答えはひとつに決まっていません。昔からよく語られてきたのが、当時の流行だったという説です。ルネサンス期のイタリアでは、広く高い額が美しいとされ、女性が生え際や眉を抜いて整えることがあったといわれます。同じ時代の肖像画にも、眉がごく淡く描かれた女性がしばしば登場します。

    眉がほとんど目立たない、広い額の若い女性を横顔で描いた肖像画
    ポッライオーロ兄弟の作とされる『若い女性の横顔の肖像』(1465年ごろ、ベルリン絵画館所蔵)。高く広い額に、眉はほとんど目立ちません。出典: Piero del Pollaiuolo / Public domain / Wikimedia Commons

    また、レオナルドは多くの作品を未完成のまま手元に残した画家でもありました。『モナ・リザ』も1503年ごろに描き始めてから何年も筆を入れ続け、最後まで依頼主に渡さなかったとされています。眉を仕上げる前に手を止めた、という見方もあるわけです。

    コットの発見は「眉はあった」説を後押しするものですが、流行説や未完成説が完全に否定されたわけではありません。いまのところ、真相は諸説あります、というのが正直なところです。

    黄ばんだニスの向こう側

    私たちが目にしている『モナ・リザ』が、描かれた当時の姿そのものではないことも忘れてはいけません。表面には何層ものニスが塗り重ねられ、年月とともに黄色く濁っています。ひび割れも全体に広がり、細かな描写はその奥に沈んでいます。

    ルーヴル美術館はこの絵の本格的な洗浄には慎重で、黄ばんだニスはいまも残されたままです。世界でもっとも有名な絵だからこそ、少しの失敗も許されないのです。眉毛の謎は、これからも厚いニスの向こうに隠れたままなのかもしれません。

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