指をポキポキ鳴らすと何の音?
関節の中の液体に気体の泡ができるときの音と考えられています。関節炎との関係は確認されていません。
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考えごとをしているとき、仕事の合間に伸びをするとき、つい指を曲げて「ポキッ」と鳴らしてしまう。そんな癖のある人は少なくありません。そして、その横で「そんなことをしていると指が太くなる」「関節が悪くなる」と眉をひそめる人もまた、少なくありません。
骨と骨がこすれているような音に聞こえますが、実際には骨はぶつかっていません。音が生まれているのは、関節の中にある小さな液体のプールです。
関節の中にできる「泡」
指の付け根や指の途中にある関節は、滑膜関節(かつまくかんせつ)と呼ばれるタイプです。向かい合う骨の端はなめらかな軟骨で覆われ、そのあいだのすき間は関節包という袋で包まれています。袋の中を満たしているのが、潤滑油の役目をする滑液(かつえき)です。
滑液には、二酸化炭素などの気体がわずかに溶け込んでいます。指を反らしたり引っぱったりして関節のすき間を急に広げると、中の圧力が下がり、溶けていた気体が泡となって現れます。液体の中に圧力の低下で空洞ができるこの現象は、キャビテーションと呼ばれます。炭酸飲料の栓を開けたときに泡が出てくるのと、少し似たしくみです。
一度鳴らした関節は、すぐにはもう一度鳴りません。気体が滑液に溶け戻るまで、およそ20分かかるとされています。続けて同じ指を鳴らそうとしても音が出ないのは、このためです。
泡が「できる音」か「はじける音」か
では、音は泡ができる瞬間に出るのでしょうか、それとも泡がはじける瞬間に出るのでしょうか。この問いをめぐって、研究者たちは半世紀近く議論してきました。
1971年、イギリスの研究チームは、関節の中にできた泡がつぶれるときに音が出るという説を発表し、長く有力な説明とされてきました。ところが2015年、カナダのアルバータ大学の研究チームが、指を引っぱる様子をMRIで連続撮影したところ、音が出た瞬間に関節の中に空洞が生まれ、その空洞は音のあとも消えずに残っていたのです。この結果から、音は泡がはじけるときではなく、できるときに出ると主張されました。
ただし、この撮影は1秒あたり約3枚のペースで、調べた被験者も1人だけでした。2018年には、アメリカとフランスの研究者が数式モデルを使い、泡が部分的につぶれるときに出る音だと考えると実際の音をうまく説明できる、という研究を発表しています。音の正体は泡であるらしい、というところまでは見えてきましたが、その細かな仕組みはまだ決着していません。
60年かけた、片手だけの実験
「指を鳴らすと関節炎になる」という言い伝えに、自分の体で挑んだ人がいます。アメリカ・カリフォルニア州の医師、ドナルド・アンガーです。
アンガー医師は、左手の指だけを1日に少なくとも2回鳴らし、右手の指はまったく鳴らさないという生活を続けました。1998年に医学誌に寄せた報告によると、その期間は50年、左手を鳴らした回数は少なくとも3万6500回。それでも、左右どちらの手にも関節炎は見られず、両手のあいだに違いもなかったといいます。
この研究は2009年、「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞の医学賞を受賞しました。受賞理由には、左手の指を「60年以上」毎日鳴らし続けたことが記されています。もちろん、1人の人間の両手を比べただけでは、科学的な証明としては十分とはいえません。それでも、これほど根気のいる対照実験はなかなかありません。
関節炎との関係は見つかっていない
もっと大勢の人を調べた研究もあります。2011年にアメリカで発表された研究では、50〜89歳の215人の手のレントゲン写真を調べ、指を鳴らす習慣の有無と変形性関節症の関係を比べました。手の関節症が見られた人の割合は、指を鳴らす人で約18%、鳴らさない人で約21%。何年鳴らしてきたか、どれくらい頻繁に鳴らすかにかかわらず、関節症の原因になるという証拠は見つかりませんでした。
一方で、1990年に約300人を調べた研究では、関節炎との関係は見られなかったものの、指を鳴らす習慣のある人のほうが手の腫れが多く、握力が弱い傾向があったと報告されています。害がまったくないと言い切れるほどの証拠もまだない、というのが正直なところです。鳴らすときに痛みや腫れがある場合は、別の原因が隠れていることもあるので、医療機関で相談しましょう。