ハチドリの心臓はどれくらい速い?
飛んでいるときは1分間に1,000回を超え、1,260回という記録もあります。
1260回
南北アメリカの花畑で、ブーンという羽音とともに花から花へと飛び回る小さな鳥がいます。ハチドリです。名前の由来にもなったこの羽音は、1秒間に55回ほど、速いときには80回ほどにもなる羽ばたきから生まれます。
ハチドリは、空中の1点にぴたりと止まる「ホバリング」をしながら、細長いくちばしで花の蜜を吸います。ヘリコプターのようなこの飛び方は、鳥の中でもとびきりエネルギーを使う技です。その激しい動きを支えているのが、驚くほど速く動く心臓です。
1分間に1,260回
私たち人間の心臓は、安静にしているとき1分間に60〜100回ほど脈を打ちます。激しい運動をしたときでも、せいぜい200回ほどです。
ハチドリの心臓は、その桁が違います。北アメリカ東部でよく見られるノドアカハチドリの場合、休んでいるときでも1分間に約250回、飛んでいるときには約1,220回にもなるとされています。そして、メキシコからアメリカ南西部に住むルリノドシロメジリハチドリでは、1分間に1,260回という心拍数が記録されています。1秒間に21回、とても数えられる速さではありません。
呼吸も同じように速く、ルリノドシロメジリハチドリは、休んでいるときでも1分間に250回ほど息をするといわれます。
体のわりに大きな心臓
ハチドリの心臓は、速いだけでなく、体のわりにとても大きいのも特徴です。ノドアカハチドリの心臓は体重の約2.5%を占め、体の大きさに対する割合としては、動物の中でもとりわけ大きいといわれます。人間の心臓は体重の0.5%ほどですから、その差は歴然です。
なぜこれほどの心臓が必要なのでしょうか。理由は、ハチドリの燃費の悪さにあります。ホバリングのための筋肉は大量の酸素を消費し、筋肉1グラムあたりの酸素の消費量は、一流の人間のアスリートの約10倍にもなると見積もられています。その酸素と燃料を全身に送り届けるため、大きな心臓が猛スピードで血液を送り出しているのです。
燃料となるのは、花の蜜に含まれる糖分です。ハチドリは昼のあいだ、次々と花を訪れては蜜を吸い続けます。蜜は水分が多いため、1日に取りこむ水の量は、体重の5倍に達することもあるといわれます。
夜は「省エネモード」に切り替え
ところが、夜になると話は一変します。花の蜜を吸えない夜のあいだ、昼間と同じペースでエネルギーを使い続けたら、ハチドリは朝までもちません。
そこでハチドリは、夜や寒いときに「トーパー(休眠)」と呼ばれる状態に入ります。体温を大きく下げ、心拍や呼吸をゆっくりにして、代謝をふだんの15分の1ほどにまで落とすのです。ふだん40℃ほどある体温が、20℃を下回るほどまで下がることもあります。
2020年には、南米ペルーのアンデス山脈の高地で、クロテリオハチドリが夜のあいだ体温を3.26℃まで下げていたことが報告されました。鳥で記録された最も低い体温です。朝が近づくと、ハチドリは体を震わせて熱をつくり、少しずつ体温と心拍数を上げて、再び飛び回れる状態に戻ります。
小さな体の宿命
ハチドリがこれほど極端な体をもつのは、体が小さいことと関係しています。体が小さいほど、体の大きさに比べて表面積が大きくなり、熱が逃げやすくなります。体温を保つだけでも、体重あたりでは大きな動物よりはるかに多くのエネルギーが必要なのです。
昼は1分間に1,000回を超える鼓動で空を飛び回り、夜は冬眠のような眠りで静かにやり過ごす。ハチドリの心臓は、昼と夜とで、まったく別の顔をもっているのです。