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    「真珠の耳飾りの少女」のモデルは誰?

    わかっていません。そもそも特定の人の肖像画ではなく「トローニー」とされています。

    2ギルダー

    1881年の競売で、この絵が落札された価格(ほかに手数料30セント)

    青と黄色のターバンを巻いた少女が、肩越しにふとこちらを振り返る。唇はかすかに開き、耳元では大きな真珠が光っています。オランダの画家ヨハネス・フェルメールが1665年ごろに描いた『真珠の耳飾りの少女』は、「北のモナ・リザ」とも呼ばれる名画です。

    これほど有名な絵なのに、描かれた少女が誰なのかはわかっていません。そして調べていくと、そもそもこの絵は、誰か特定の人を描くための絵ではなかったらしいのです。

    肖像画ではなく「トローニー」

    この絵は、オランダのハーグにあるマウリッツハイス美術館が所蔵しています。縦44.5センチ、横39センチと、意外なほど小さな油彩画です。

    美術史では、この絵は「トローニー」と呼ばれる種類の作品とされています。トローニーとは、17世紀のオランダで描かれた、人物の「顔」を主題にした作品のことです。特定の人物の姿を記録する肖像画とは違い、描かれた人に似せる必要はありません。異国風の衣装や印象的な表情など、見る人を惹きつける顔つきそのものが主役でした。

    少女が巻いているターバンも、当時のヨーロッパではエキゾチックな装いとして関心を集めたものです。フェルメールの死後に作られた財産目録には「トルコ風に描かれた2点のトローニー」という記載があり、そのうちの1点がこの絵ではないかとも考えられています。

    青と黄色のターバンを巻き、大きな真珠の耳飾りをつけた少女が肩越しに振り返っている油彩画
    ヨハネス・フェルメール『真珠の耳飾りの少女』(1665年ごろ、マウリッツハイス美術館所蔵)。出典: Johannes Vermeer / Public domain / Wikimedia Commons

    モデル候補はいるけれど

    それでも、モデルが誰だったのかを想像する人は後を絶ちません。候補としてよく名前が挙がるのは、フェルメールの長女マリアや、フェルメールの最大の支援者だったファン・ライフェンの娘マグダレーナです。けれども、どちらにも決め手となる証拠はありません。

    1999年には、アメリカの作家トレイシー・シュヴァリエが、フェルメール家の若い使用人がモデルになったという筋書きの小説を発表し、2003年には映画にもなりました。ただし、これはあくまでフィクションです。

    真珠には輪郭も留め具もない

    2018年2月から3月にかけて、マウリッツハイス美術館は「ガール・イン・ザ・スポットライト」と名づけた調査を行いました。絵を額から外して特設のガラス張りの作業室に置き、来館者が見守るなかで、国際的な研究チームが2週間かけて、顕微鏡やX線などを使って調べたのです。その成果は2020年に発表されました。

    わかったことのひとつが、耳飾りの描き方です。真珠は、半透明と不透明の白い絵の具を数筆置いただけで表されていて、輪郭線がなく、耳に掛けるための留め具も描かれていませんでした。私たちが見ている真珠は、光と影の筆づかいが生み出した、いわば目の錯覚だったのです。

    それより前の2014年には、オランダの天体物理学者ファンサン・イッケが、この耳飾りは真珠にしては大きすぎ、形や光の映り込み方からみても、磨いた錫(すず)のように見えると指摘していました。本物の真珠だったのか、ガラスや金属の模造品だったのか、そもそも実在した耳飾りなのか。その答えは、絵の中には描かれていないのです。

    緑の模様の壁紙の展示室に掛かる『真珠の耳飾りの少女』を、来館者が見つめている
    マウリッツハイス美術館の展示室に掛かる『真珠の耳飾りの少女』(2018年撮影)。出典: Txllxt TxllxT / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

    調査では、肉眼では見えない細いまつ毛が描かれていたことや、真っ黒に見える背景に、もとは緑色のカーテンが描かれていたことも明らかになりました。緑の絵の具が長い年月のうちに変化し、黒く見えるようになったと考えられています。絵の具には、アフガニスタン産のラピスラズリからつくった高価な青、ウルトラマリンも使われていました。

    それでも、少女の正体だけはわかりませんでした。美術館の館長は、少女はまだ自分が誰なのかという秘密を明かしてくれない、それでも前より少し彼女のことを知ることができた、という趣旨のことを語っています。名前のない少女だからこそ、見る人はそれぞれの物語を重ねたくなるのかもしれません。

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