世界初の写真は?
1827年ごろ、フランスのニエプスが自宅の窓から撮った風景が、現存する最古の写真です。
1827年
いまや写真は、誰でも一瞬で撮れるものになりました。スマートフォンを向けて画面に触れれば、それでおしまい。撮ったその場で、遠くの友人に送ることもできます。
けれども、200年ほど前までは、目の前の景色をそのまま残す方法はありませんでした。光が描いた像を、どうすれば消えないように留めておけるのか。その難題に最初に挑み、成功したのが、フランスのある発明家でした。
2階の窓から見えた景色
その人の名は、ジョゼフ・ニセフォール・ニエプス。フランス中部ブルゴーニュ地方の村、サン=ルー=ド=ヴァレンヌの自宅で、彼は長年、光で像を写し取る実験を続けていました。
ニエプスが目をつけたのは、「ユダヤの瀝青(れきせい)」と呼ばれる天然のアスファルトでした。この物質は、光に当たると固まり、溶けにくくなる性質を持っています。磨いた金属の板にアスファルトを塗ってカメラに入れ、光を当てたあと、固まらなかった部分を洗い流せば、光の当たり方の違いが像として残るのです。彼はこの技法を「ヘリオグラフィ」と名づけました。ギリシャ語で「太陽で描く」という意味です。
1827年ごろ、ニエプスはこの方法で、自宅の2階の窓から見える景色を写しました。縦約16.7センチ、横約20.3センチのしろめ(スズを主成分とする合金)の板に写っているのは、中庭と離れの建物、そして木々です。これが「ル・グラの窓からの眺め」と呼ばれる、現存する世界最古の写真です。
ニエプスは1825年から1829年にかけて、20点あまりのヘリオグラフィを作りました。その多くは版画などを写し取ったもので、カメラで実際の景色を撮ったものとして残っているのは、この1枚だけだとされています。
撮影に何時間? 何日?
この写真を撮るのに、どれくらいの時間がかかったのでしょうか。長いあいだ、光を当てた時間は8時間ほどだと考えられてきました。ところが近年の研究では、数日に及んだ可能性もあると指摘されています。
写真を所蔵する研究機関も、この板は「数日間」日光にさらされたと説明しています。いまならシャッターを切る一瞬で済むことに、それだけの時間がかかったのです。
ニエプスは1833年に亡くなり、この写真も一時は行方がわからなくなりました。1952年、写真史の研究者ヘルムート・ゲルンシャイムと妻アリソンが再発見し、1963年からはアメリカ・テキサス大学オースティン校のハリー・ランサム・センターで、酸素を抜いた特別なケースに入れて大切に保管されています。
数分で撮れる写真へ
ニエプスの研究を引き継いだのが、1829年から彼と手を組んでいたフランスの画家ルイ・ダゲールです。ダゲールは銀メッキをした銅板を使う新しい方法を開発し、撮影にかかる時間を数分にまで縮めました。ニエプスの息子と結んだ契約書には、ニエプスのアスファルトの方法より「60〜80倍速い」と記されています。この「ダゲレオタイプ」は、1839年8月19日にフランス科学アカデミーなどの会合で発表され、フランス政府が権利を買い取って、世界に無償で公開しました。
ダゲールが1838年ごろにパリで撮った「タンプル大通り」の写真には、面白い秘密があります。にぎやかな大通りのはずなのに、通りにはほとんど人影がありません。露光に4〜5分かかったため、行き交う人や馬車は写らなかったのです。ところが、画面の左下には、靴を磨いてもらっている男性と靴磨きの姿がかすかに写っています。じっと立ち止まっていたおかげで、彼らは写真に写った最初の人間の1人になりました。