「エスカレーター」はもともと商品名?
はい。アメリカのオーチス社の登録商標でしたが、1950年に一般名詞になったとして登録が取り消されました。
1950年
駅の階段の横で、デパートの吹き抜けで、私たちはごく当たり前のようにエスカレーターに乗っています。「エレベーター」と並んで、すっかり日本語に溶けこんだ言葉です。
ところがこの「エスカレーター」は、もともとはある会社の商品につけられた名前でした。誰もが使う普通の言葉になるまでには、ちょっとした曲折があったのです。
「動く階段」の発明合戦
動く階段のアイデア自体は、19世紀半ばからありました。1859年には、アメリカのネイサン・エイムズが「回転する階段」の特許を取っていますが、実際に作られることはありませんでした。
実用化に向けて動き出したのは1890年代です。1892年、アメリカの発明家ジェシー・レノが「エンドレス・コンベヤーまたはエレベーター」の特許を取得します。これは階段ではなく、ゆるやかな坂になったベルトの上に乗って運ばれる「傾斜エレベーター」でした。1896年には、ニューヨークの行楽地コニーアイランドの桟橋に設置されました。
同じ1892年には、ジョージ・ウィーラーも、平らな段が動き、手すりもいっしょに動く階段の特許を取っています。いまのエスカレーターにより近い形でしたが、ウィーラー自身がこれを作ることはありませんでした。
名づけ親はシーバーガー
ウィーラーの特許を買い取ったのが、アメリカのチャールズ・シーバーガーです。彼はエレベーター会社のオーチス社と組み、1899年に段のついた動く階段を完成させました。
その名前としてシーバーガーが考えたのが「エスカレーター(Escalator)」です。ラテン語で「はしご」や「階段」を意味する「スカラ(scala)」と、「エレベーター」を組み合わせた造語でした。1900年のパリ万国博覧会に出品されたエスカレーターは、一等賞を受けています。
シーバーガーは1900年にこの名前を商標として登録し、のちにオーチス社に譲りました。つまり当時の「エスカレーター」は、ほかの会社が勝手に使うことのできない、オーチス社の商品名だったのです。
有名になりすぎた名前
ところが、動く階段が世界中に広まるにつれて、「エスカレーター」という言葉はメーカーを問わず、動く階段そのものを指す言葉として使われるようになっていきます。
そこで、ライバルのエレベーター会社が、アメリカの特許庁に商標登録の取り消しを求めました。1950年、特許庁はこの訴えを認めます。世間の人々は「エスカレーター」を、どこの会社の製品かを示す名前ではなく、動く階段そのものの名前として受け止めている、と判断したのです。しかもオーチス社自身が、特許の書類や広告の中で、この言葉を一般的な名詞のように使っていたことも決め手になりました。
商品名が有名になりすぎて普通名詞になり、商標としての力を失ってしまうことは、英語で「ジェネリサイド」と呼ばれることがあります。エスカレーターは、その代表的な例として、いまもよく取り上げられます。
日本にやってきたのは1914年
日本で初めてエスカレーターが登場したのは、1914年(大正3年)のことです。この年の3月から7月まで東京・上野で開かれた東京大正博覧会では、2つの会場を結ぶエスカレーターが設けられました。速さは秒速1尺(約30センチ)。乗るには10銭が必要でした。
同じ年の秋には、東京・日本橋の三越呉服店が完成させた新館にも、エスカレーターが備えつけられました。日本エレベーター協会は、こちらを日本初のエスカレーターとして紹介しています。博覧会の会場に置かれた期間限定のものと、建物に常設されたものと、どちらを「最初」と数えるかで、答えが分かれるのです。三越のエスカレーターは、1923年の関東大震災で焼失してしまいました。