エレベーターはなぜ落ちない?
複数のロープに加え、速度の出すぎを感じると自動でレールをつかむ非常ブレーキがあるからです。
高層ビルのエレベーターに乗って、ふと足もとが気になったことはないでしょうか。この箱を吊っているロープが、もし切れたら。映画やドラマでは、ロープが切れたエレベーターが猛スピードで落ちていく場面がおなじみです。
実際のエレベーターには、そんな事態を防ぐための仕掛けが何重にも組み込まれています。その出発点は、19世紀半ばのアメリカで、ひとりの職人が考え出した小さな工夫でした。
「綱が切れたら終わり」だった時代
19世紀前半にも、蒸気機関や水圧で荷物を持ち上げる昇降機はありました。ただ、吊り綱が切れれば荷台はそのまま落ちてしまいます。危険すぎて、人が乗るものとしては信頼されていませんでした。
1852年ごろ、ニューヨーク州ヨンカーズのベッド工場で機械の据え付けをしていたエリシャ・オーチスは、重い機材を上の階へ運ぶための昇降機に、落下を防ぐ装置を取り付けました。仕組みはこうです。荷台の上に板ばねを付け、吊り綱で引っぱって縮めておく。綱が切れて引っぱる力がなくなると、ばねが一気に開き、その先の爪が、昇降路の両側に取り付けたのこぎり歯のようなレールに引っかかる。綱が切れた瞬間に、荷台が自分でブレーキをかけるわけです。
1854年、オーチスはニューヨークの博覧会会場「クリスタル・パレス」で、この装置を公開しました。観客の前で昇降台に乗って高く上がり、吊り綱を切らせてみせたのです。台はわずかに下がっただけで止まりました。このときオーチスは帽子を取り、「すべて安全です、皆さん」と言ったと伝えられています。
摩天楼への扉を開いた装置
1857年3月23日、ニューヨークのブロードウェイ488番地にある陶磁器店、E・V・ホーウォート・ビルに、オーチスの安全装置付きの旅客用エレベーターが初めて設置されました。5階建てのこの建物は、いまも同じ場所に立っています。
人が安心して上の階へ上がれるようになったことは、建物の高さそのものを変えました。階段で上れる高さには限りがありますが、エレベーターがあれば何十階でも問題ありません。19世紀末から始まる摩天楼の時代は、この安全装置なしには考えられなかったでしょう。
今のエレベーターの何重もの守り
現代のエレベーターは、さらに念入りに守られています。まず、かごを吊るロープは1本ではなく複数本あり、それぞれが大きな余裕をもった強度で作られています。日本では、ロープは3本以上使われるのが一般的で、すべてが同時に切れることはまずありません。
それでも万一、かごが速く動きすぎたときに働くのが「調速機(ガバナー)」です。かごと一緒に動く専用のロープで回転する装置で、速度が上がりすぎると遠心力で作動します。日本の基準では、おおむね定格速度の1.3倍を超える前にモーターの電源を切ってブレーキをかけ、1.4倍を超える前に調速機ロープをつかみます。すると、かごの下にある非常止め装置がくさびをレールに食い込ませ、かごを強制的に止めるのです。さらに、昇降路のいちばん下には、衝撃を和らげる緩衝器も備えられています。
実際、2011年には東京メトロ平和台駅のエレベーターで、かごを吊るロープ3本がすべて切れる事故がありました。かごは数メートル下がったところで非常止め装置により止まり、乗っていた女性は打撲を負ったものの、命に別状はありませんでした。