3点式シートベルトの特許は無料だった?
はい。1959年にボルボが実用化した3点式ベルトの特許は、ほかの自動車会社も無償で使えるよう開放されました。
100万人以上
車に乗りこんだら、ベルトを肩から斜めに引き出し、腰の横の留め具にカチッと差しこむ。いまでは当たり前のこの動作は、腰と胸の2か所を同時に押さえる「3点式シートベルト」のものです。
この形を実用化したのは、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボの技術者でした。そしてボルボは、この発明で利益を独り占めすることをしませんでした。
腰だけのベルトでは足りなかった
座席に体を固定するベルトの考え方は、古くからありました。19世紀にはイギリスのジョージ・ケイリーがグライダーにベルトを使い、20世紀に入ると飛行機の座席には欠かせないものになります。自動車でも、1949年にはアメリカのナッシュ社が、腰に巻くベルトをオプションとして用意しました。
ただ、腰だけを押さえる2点式のベルトでは、衝突の勢いで上半身が前に折れ曲がり、頭や胸を強く打ってしまうおそれがありました。肩から斜めにかけるベルトを組み合わせる3点式の発想も、1955年にはアメリカで特許が取られていましたが、まだ広く使われるには至っていませんでした。
戦闘機の座席から来た技術者
これを誰でも使える形にまとめたのが、ニルス・ボーリンです。1920年生まれのボーリンは、航空機メーカーのサーブで、戦闘機のパイロットが緊急脱出するための射出座席の開発に携わっていました。1958年、ボルボに移って安全技術を担当することになります。
ボーリンが考えたのは、腰のベルトと、肩から斜めにかかるベルトを1本につなげ、座席の横の低い位置で留める形でした。衝突のとき、体の中でも丈夫な骨盤と胸を押さえることができ、しかも片手で簡単に締められます。1959年、ボルボはこの3点式シートベルトを自社の車に取り入れました。
特許を独り占めしなかったボルボ
ボルボはこの設計で特許を取りました。特許の書類には、ベルトを締めた人の体が前へ投げ出されるのを、体にとって無理のない形で防ぐという狙いが記されています。ところが、ほかの自動車メーカーから使用料を取ることはせず、誰でも無償で使えるようにしたのです。ボルボ・グループの公式サイトでは、この発明は「支払いや権利の主張なしに、業界全体、そして世界中が使えるよう事実上贈られた」と紹介されています。
ボーリンはその後、効果の検証にも取り組みました。1967年には、スウェーデンで起きた2万8000件の事故を調べ、車室がつぶれていない場合、時速約100キロ未満の事故でベルトを締めていた人に死者はいなかったと報告しています。
3点式シートベルトは、いまでは世界中のほとんどの車に取り付けられています。ボルボは、この発明がこれまでに少なくとも100万人の命を救ったとしています。
日本で着用が義務になるまで
日本では、1969年に乗用車の運転席へのシートベルトの取り付けが義務になりました。取り付けの義務はその後、1973年に助手席、1975年に後部座席へと広がります。ただし、締めるかどうかは長く乗る人まかせでした。1971年に高速道路での着用が「努力義務」とされたものの、守らなくても罰はなかったのです。高速道路などで前の座席の着用が義務になったのは1985年、後部座席の着用が義務になったのは2008年のことです。
警察庁によると、後部座席でベルトを締めていなかった人の致死率は、締めていた人に比べて、高速道路で約13.9倍、一般道路で約2.8倍にもなります。後ろの席でも、ベルトは命綱なのです。