耳あかのタイプは遺伝で決まる?
決まります。遺伝子のたった1文字の違いで、乾いた耳あかになるか、湿った耳あかになるかが分かれます。
耳かきで取れる耳あかが、カサカサと乾いている人。綿棒にねっとりとつく、湿った耳あかの人。日本では乾いたタイプが多数派で、湿ったタイプは「あめ耳」などと呼ばれることもあります。
この違いは、体質や耳掃除の習慣によるものではありません。生まれつき、遺伝子で決まっているのです。しかもその決め手は、膨大な遺伝情報の中の、たった1文字の違いでした。
1文字の違いが決める
2006年、長崎大学の吉浦孝一郎さんや新川詔夫さんらの研究グループは、イギリスの科学誌『ネイチャー・ジェネティクス』に、耳あかのタイプを決める遺伝子を突き止めたと発表しました。
その遺伝子は、16番染色体にある「ABCC11」。細胞の中から物質を外へ運び出す、ポンプのような役割をもつタンパク質の設計図です。この遺伝子の538番目の塩基が、G(グアニン)かA(アデニン)か。その1文字の違いで、耳あかのタイプが分かれていました。
人は遺伝子を父親と母親から1つずつ受け継ぎます。両方からAを受け継いだ「AA」の人は乾いた耳あかに、少なくとも1つGをもつ「GA」や「GG」の人は湿った耳あかになります。Aをもつ細胞は、物質を運び出す働きが弱いこともわかりました。研究チームは、DNAのたった1か所の違いが目に見える体の特徴を決めていることを示した、初めての例だとしています。
湿ったタイプが「優性」
遺伝の言葉でいえば、湿ったタイプが優性(顕性)、乾いたタイプが劣性(潜性)です。そのため、両親がどちらも乾いた耳あかなら、子どもも乾いた耳あかになります。一方、両親がどちらも湿った耳あかでも、2人ともGAの組み合わせなら、4分の1の確率で乾いた耳あかの子どもが生まれます。
世界地図で見ると
実は、世界全体で見れば湿った耳あかのほうが多数派です。乾いた耳あかは東アジアの人々に多く、アフリカやヨーロッパの人々ではほとんどが湿ったタイプです。
国際的な遺伝子研究「1000人ゲノム計画」のデータを見ると、乾いた耳あかになるAA型の人は、北京の漢民族では約94%、東京の日本人では約78%。これに対してイギリスの人々では約1%、ナイジェリアのヨルバの人々では0%でした(いずれも100人前後の調査)。
同じデータでは、東京の日本人で湿った耳あかの人のうち、9割ほどがGA型でした。両親とも湿った耳あかなのに、子どもは乾いた耳あか。そんな親子は、日本ではそれほど珍しくないのです。
2006年の研究では、Aの割合が中国や韓国の人々で最も高く、そこから離れるほど低くなることもわかりました。研究チームは、乾いた耳あかの遺伝子は北東アジアで生まれ、人々の移動とともに世界へ広がったと考えています。耳の中の小さなかけらに、人類の旅の跡が刻まれているのです。
耳あかだけではない
ABCC11遺伝子が関わっているのは、耳あかだけではありません。わきの下などにある汗腺「アポクリン腺」の働きにも関わっていて、湿った耳あかの人は、わきの汗のにおいが強くなりやすい傾向があります。耳あかが湿っているのも、耳の穴にある、アポクリン腺の仲間の分泌腺の働きによるものです。
ちなみに耳あかは、ただの汚れではありません。耳の穴の皮膚を守り、細菌やカビから守る役目もあります。耳の皮膚は少しずつ外へ向かって移動していて、耳あかも自然に外へ運び出されます。綿棒を奥まで入れると、かえって耳あかを奥へ押し込んでしまうことがあるので、取りすぎには注意が必要です。