四角いリングはなぜ「リング」?
昔は観客が輪になって囲んだ円い場所で戦ったからです。1838年に四角くなっても、名前だけが残りました。
ボクシングやプロレスの試合が行われる「リング」は、ロープで囲まれた四角い台です。ところが英語の ring は、指輪(ring)と同じく「輪」や「円」を意味する言葉。四角いのに「輪」とは、考えてみれば妙な呼び名です。
英語圏でもこのちぐはぐさは昔から意識されていて、ボクシングのリングは「スクエアド・サークル(四角くされた円)」というあだ名でも呼ばれています。どうして、こんなことになったのでしょうか。
観客がつくった「輪」
近代ボクシングが形づくられたのは、18世紀のイギリスです。当時の拳闘は、素手で殴り合うだけでなく、相手を投げ飛ばすことも許された荒っぽい見世物で、野外で行われることも少なくありませんでした。
初期の試合の場所は、地面におおまかに円を描いただけのものでした。そのまわりを見物人がぐるりと取り囲み、ときにはロープを手に持ったり、手をつないだりして、選手が逃げ出せないようにしたといわれます。人垣がつくる円形の空間、つまり「輪」。これが「リング」という呼び名の始まりです。
1804年のイギリスの新聞『タイムズ』には、ある選手が「見物人の頭越しに帽子をリングに投げ込んで、相手への挑戦を示した」という記事が残っています。人の輪の中が、まさに戦いの場だったのです。
真ん中に引かれた線
1743年、ロンドンで自分の闘技場を開いていたチャンピオンのジャック・ブロートンが、拳闘のルールを定めて掲示しました。ボクシングで最初の成文ルールとされる「ブロートン・ルール」です。
そこには、闘う場所の真ん中に1ヤード(約91センチ)四方の四角を描くことが定められていました。選手が倒されると、介添え人が30秒以内にその四角まで選手を連れ戻さなければならず、できなければ負けになります。倒れた相手を殴ってはいけない、という決まりもここで生まれました。
のちのルールでは、この目印は地面に引いた線(スクラッチ)になり、倒れた選手は自分の足でそこまで戻れなければ負けとされました。英語で「基準に達している」という意味の慣用句 up to scratch は、ここから生まれた表現だといわれています。
1838年、リングが四角くなった
リングそのものが四角になったのは、1838年に定められた「ロンドン・プライズ・リング・ルール」からです。このルールでは、芝生の上に一辺24フィート(約7.3メートル)の四角いリングをつくり、杭を打ってロープを張ることが決められました。
なぜ円ではなく四角だったのか、はっきりとした記録は残っていません。ただ、杭を立ててロープを張るなら、円よりも直線で囲むほうがずっと簡単です。形は実用的な四角に変わっても、「リング」という名前はそのまま使われ続けました。
その後、1867年には、グローブの着用や1ラウンド3分などを定めた「クインズベリー・ルール」が発表され、今のボクシングの基礎になります。闘いの場も、やがて地面の上から、高く組まれた台の上へと移っていきました。
今のリングの大きさ
日本ボクシングコミッションのルールでは、リングの広さはロープの内側で18フィート(約5.47メートル)四方以上、24フィート(約7.31メートル)四方以内とされています。1838年のリングの一辺24フィートが、今も上限として生きているわけです。
ロープは直径1インチ以上のものを4本、床から約46センチ、74センチ、104センチ、132センチの高さに張ります。台の高さは、床から4フィート(約1.22メートル)以内です。
ちなみに、同じく人と人とが組み合う相撲の土俵は、今も円いままです。ボクシングのリングは、形は変わっても、名前の中にかつての「輪」の記憶をとどめているのです。