自動販売機は古代からあった?
あったとされます。1世紀ごろ、アレクサンドリアのヘロンが硬貨で水が出る装置を書き残しています。
259万台
駅のホームにも、山道の休憩所にも、ビルの片隅にも。日本で暮らしていると、自動販売機のない風景を思い浮かべるほうが難しいくらいです。硬貨を入れるだけで、店員がいなくても品物が手に入る。考えてみれば、とても賢い仕組みです。
この「お金を入れると品物が出てくる」機械は、近代の発明だと思われがちです。ところが、そのアイデアは古代のエジプトにすでにありました。
硬貨を入れると聖なる水が出る
1世紀ごろ、エジプトのアレクサンドリアに、ヘロンという技術者がいました。蒸気の力で回る球や、自動で開く神殿の扉など、さまざまな仕掛けを考えたことで知られる人物です。
そのヘロンが著書『気体装置』に書き残したのが、「お金を入れたときだけ水が流れ出る、いけにえ用の器」です。神殿に置かれ、参拝者が硬貨を入れると、身を清めるための水が出てくる仕組みでした。英語の翻訳によれば、使う硬貨は5ドラクマ硬貨とされています。ドラクマは、古代ギリシャ世界で使われた銀貨の単位です。神殿にやってきた人が、お金を払って清めの水を受け取る。まさに「販売」の仕組みでした。
仕組みは、てこを使った巧みなものです。器の中には、てこの一方の端に受け皿がついています。投入口から落ちた硬貨がこの皿に載ると、その重みでてこが傾き、反対側につながった栓が持ち上がって水が流れ出します。やがて皿が傾いて硬貨が滑り落ちると、てこは元に戻り、栓が閉じて水が止まるのです。電気もばねも使わず、硬貨の重さだけで動く、世界最古の自動販売機ともいわれる装置です。
近代の自販機は「はがき売り」から
その後、硬貨で動く機械はしばらく歴史から姿を消します。17世紀のイギリスでは、酒場にたばこを売る真ちゅう製の箱が置かれていたという記録がありますが、本格的な自動販売機が広まるのは19世紀になってからでした。
1883年、イギリスのパーシバル・エバリットが、はがきや封筒、便せんを売る硬貨式の機械を考案しました。この機械は、駅や郵便局に置かれて広まっていきました。アメリカでは1888年、ガムの会社がニューヨークの鉄道のホームにガムの自動販売機を設置しています。
日本最古の自販機は郵便ポスト付き
日本に現存する最も古い自動販売機は、1904年(明治37年)に山口県の発明家、俵谷高七が考案した「自働郵便切手葉書売下機」です。その名のとおり、切手とはがきを売る機械でした。
右側には3銭切手の売り口、左側には1銭5厘のはがきの売り口があり、中央の下には硬貨の返却口と郵便ポストまでついていました。品物がなくなると「売り切れ」を表示する仕組みも備えていたといいます。ただ、動作の正確さにやや難があり、実用化には至りませんでした。
日本はどれくらい多い?
では、いま日本にはどれくらいの自動販売機があるのでしょうか。日本自動販売システム機械工業会の調べでは、2025年末の時点で、自動販売機は約259万台。そのうち飲料の自動販売機が約218万台を占めています。両替機やコインロッカー、駐車場などの自動精算機といった「自動サービス機」を含めると、合計は約388万台にのぼります。
自動販売機だけで見ても、日本の人口およそ50人に1台という計算です。屋外に置かれた機械が壊されたり盗まれたりしにくい治安のよさも、ここまで普及した理由の1つといわれます。
もっとも、台数はゆるやかに減り続けています。2014年末には、合計で約504万台ありました(2017年の大きな減少には、統計の数え方の見直しも含まれています)。一方で、コロナ禍のころには、人と顔を合わせずに買える冷凍食品の自動販売機が増えるなど、売られる品物は多様になっています。