ストーンヘンジの石はどこから来た?
巨石は約25キロ北の森から、小さな石は約225キロ離れたウェールズから。祭壇石ははるかスコットランドから来ました。
750km
イギリス南部、ソールズベリー平原の草原に、巨大な石が輪をつくって立ち並んでいます。ストーンヘンジです。最初に円形の土手と堀が造られたのは紀元前3000年ごろ、中心に巨石が組み上げられたのは紀元前2500年ごろとされています。
ストーンヘンジには、大きく分けて2種類の石が使われています。高さ7メートルにもなる「サーセン石」と呼ばれる砂岩の巨石と、それより小ぶりな「ブルーストーン」と呼ばれる石です。周りの平原には、こうした石はほとんど見当たりません。では、石はどこからやってきたのでしょうか。
伝説では、魔法使いが運んだ
中世のイギリスでは、ストーンヘンジは魔法使いマーリンが造ったと語られていました。1136年ごろにジェフリー・オブ・モンマスが著した『ブリタニア列王史』には、マーリンが魔法の力でアイルランドから石を運んできたという話が出てきます。この話は16世紀ごろまで広く信じられていたといいます。
もちろん、これは伝説です。石の本当のふるさとがわかってきたのは、ここ数十年、岩石の成分を詳しく調べる技術が進んでからのことでした。
巨石は約25キロ北の森から
まず、サーセン石です。重さは平均20トンを超え、最も重いものは約30トンあります。2020年、イギリスのブライトン大学のデイヴィッド・ナッシュ教授らは、現存する52個のサーセン石のうち50個が、ほぼ同じ化学成分を持っていることを突き止めました。
決め手になったのは、1950年代の修復工事の際に、石の一つから円柱状に抜き取られた芯でした。工事に関わったロバート・フィリップスさんが持ち帰っていたもので、2019年にアメリカから返還されたのです。この芯の成分を各地のサーセン石と比べた結果、ストーンヘンジの約25キロ北にある「ウェスト・ウッズ」という森のあたりが、巨石のふるさとである可能性が高いとわかりました。
小さな石はウェールズの丘から
ブルーストーンは、1個あたり2〜5トンほど。サーセン石より小さいとはいえ、手で運べる重さではありません。こちらは、ストーンヘンジから直線距離で約225キロ離れた、ウェールズ西部のプレセリの丘から運ばれたことがわかっています。
ロンドン大学(UCL)のマイク・パーカー・ピアソン教授らは、プレセリの丘のカーン・ゴエドグやクレイグ・ロス・ア・フェリンという岩場で、石を切り出した採石場の跡を見つけました。岩の割れ目にくさびを打ち込み、柱状の石をはがし取っていたとみられ、採石の跡は紀元前3000年ごろのものと考えられています。パーカー・ピアソン教授は、ヨーロッパのほかの新石器時代の巨石遺跡は、どれも16キロほどの範囲から石を集めていると指摘しています。それだけに、ストーンヘンジの遠距離輸送は異例なのです。
祭壇石は、はるかスコットランドから
さらに驚きの発見が、2024年に発表されました。ストーンヘンジの中心に横たわる「祭壇石」は、長さ約5メートル、重さ約6トンの砂岩です。長いあいだウェールズから来たと考えられてきましたが、オーストラリアのカーティン大学などの研究チームが石に含まれる鉱物の粒の年代と成分を調べたところ、スコットランド北東部の地層と一致したのです。
その距離は、少なくとも750キロメートル。陸路で運ぶのは非常に難しいため、ブリテン島の沿岸を船で運んだのではないかと考えられています。研究チームは、新石器時代のブリテン島に、これほどの大事業を成し遂げる社会の組織力があったことを示すものだとしています。
25キロ、225キロ、そして750キロ。まだ文字もなかった時代の人々は、島のあちこちから石を集め、一つの記念碑を築き上げたのです。