ローマのコンクリートはなぜ長持ち?
火山灰を使った配合と、ひび割れを自分でふさぐ石灰の粒が、長い寿命を支えていると考えられています。
1900年
ローマの街を歩くと、2000年近く前の建物が、いまも当たり前のように立っています。その多くを支えているのが、古代ローマ人が使ったコンクリートです。一方、私たちの身の回りのコンクリートは、条件が悪ければ数十年でひびが入り、補修が必要になります。
技術の進んだ現代の材料が、古代の材料に寿命で負けている。いったいなぜなのでしょうか。近年の研究で、その理由が少しずつ明らかになってきました。
決め手はナポリの火山灰
ローマのコンクリートは、ラテン語で「オプス・カエメンティキウム」と呼ばれます。石灰石を焼いて作った石灰に水と砂を混ぜ、砕いた石やれんがのかけらと一緒に固めたものです。紀元前150年ごろには広く使われるようになっていたとされています。
ただの石灰モルタルなら、古代の各地にありました。ローマの強みは、砂の代わりに混ぜた火山灰にあります。ナポリ近郊のポッツォーリ周辺でとれる火山性の砂で、地名にちなんで「ポッツォラーナ」と呼ばれます。建築家ウィトルウィウスも、この粉を石灰と混ぜると、海の中でも固まると書き残しました。火山灰に含まれるケイ素やアルミニウムが石灰と反応し、石のように丈夫な結合を生み出すのです。
白い粒は「失敗」ではなかった
ローマのコンクリートを割ってみると、ミリ単位の小さな白い粒が点々と見つかります。石灰の塊で、「ライム・クラスト」と呼ばれます。長いあいだ、材料をよく混ぜなかった手抜きの跡だと考えられてきました。
ところが2023年1月、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアドミール・マシック教授らの研究チームが、科学誌『サイエンス・アドバンシズ』でこの見方をくつがえします。チームは、ローマ人が水と反応させる前の生石灰をそのまま混ぜ、高温を発生させながら練る「ホット・ミキシング」という方法を使っていたと考えました。白い粒は、そのときにできたもろい石灰の塊だというのです。
この粒が、ひび割れの修理役を果たします。コンクリートにひびが入り、水がしみこむと、粒の中のカルシウムが溶け出します。それが炭酸カルシウムとして再び固まり、すき間をふさいでしまうのです。チームが生石灰入りの試料をわざと割って水を流したところ、ひびは2週間ほどで完全にふさがりました。生石灰を使わない試料では、ふさがらなかったといいます。
海水で強くなる防波堤
ローマ人は、このコンクリートで海の中にも港や防波堤を築きました。博物学者プリニウスは、海に沈めたコンクリートが「波を寄せつけない一つの石の塊となり、日ごとに強くなる」と書いています。
大げさな表現にも聞こえますが、2017年、アメリカ・ユタ大学のマリー・ジャクソンらは、これを裏づける研究を発表しました。海水がコンクリートにしみこむと、火山灰の成分が溶け出し、「アルミニウム置換トバモライト」や「フィリップサイト」という鉱物の結晶がゆっくり育っていきます。この結晶がすき間を埋めて絡み合い、全体を強く結びつけていると考えられています。現代のコンクリートにとって海水は大敵ですが、ローマのコンクリートはそれを味方につけていたことになります。
鉄筋のない巨大ドーム
ローマのコンクリートの到達点といえるのが、ローマのパンテオンです。現在の建物は2世紀前半、ハドリアヌス帝の時代に完成し、126年ごろに献堂されたとされています。ドームの直径は43.3メートル。いまも鉄筋を使わないコンクリートのドームとしては世界最大です。
ドームの厚さは、根元の約6.4メートルから頂上付近の約1.2メートルへと薄くなっていきます。混ぜる骨材も、下のほうには重い石灰華(トラバーチン)、上へいくほど軽い凝灰岩や軽石へと変えられていました。上の部分を軽くして、ドームが自分の重さでつぶれないようにする工夫です。
実は、押しつぶす力に対する強さだけなら、現代のコンクリートのほうが上です。それでも現代の建物が傷みやすい理由のひとつは、中の鉄筋にあります。鉄筋がさびてふくらむと、内側からコンクリートを割ってしまうのです。鉄筋を使わなかったローマの建物には、この弱点がありませんでした。もちろん、ローマのコンクリートもすべてが残ったわけではありません。いま見られるのは、とくに出来がよく、条件にも恵まれた建物だということも忘れてはいけないでしょう。