お腹が鳴るのはなぜ?
胃や腸が中身を送る動きで、ガスと液体が揺れて鳴ります。空腹時の強い収縮で特に目立ちます。
静まりかえった会議室や、試験中の教室。そんなときに限って、お腹が「ぐう」と鳴ってしまう。思わず顔が赤くなった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
あの音は、お腹がすいたことを知らせる合図のように思えます。けれども実際には、空腹を感じていないときにも鳴ることがあります。音の正体をたどっていくと、胃と腸が休みなく続けている、とても規則正しい動きに行き着きます。
音の正体は、ガスと液体が動く音
食べ物の通り道である消化管は、口から肛門まで続く1本の長い管です。その壁には筋肉があり、波のように縮んだりゆるんだりしながら、中身を先へ先へと送っています。この動きを蠕動(ぜんどう)運動といいます。
管の中に入っているのは、食べ物や消化液だけではありません。食事や会話のときに飲み込んだ空気や、消化の途中で生まれたガスも混じっています。筋肉が縮んで中身が押し出されると、ガスと液体がかき混ぜられながら狭いところを通り抜けます。そのときの振動が、お腹の外まで響いてくるのです。
医学ではこの音を「腹鳴(ふくめい)」と呼び、英語ではボーボリグマス(borborygmus)といいます。古代ギリシャ語に由来する言葉で、ゴロゴロという音をまねた擬音語だと考えられています。なお、音が出ているのは胃だけではなく、小腸から出る音も多いとされています。
空腹のときにやってくる「お掃除の波」
では、なぜ空腹のときに鳴りやすいのでしょうか。カギを握るのが、**伝播性消化管運動群(MMC)**と呼ばれる動きです。
食べたものが胃から送り出され、ひと仕事を終えた消化管には、しばらく静かな時間が訪れます。やがて胃から小腸にかけて、ゆるやかな動きが少しずつ強まり、最後に数分間、とても強い収縮の波が通り過ぎていきます。食事をとっていない間、このサイクルがおよそ1時間半から4時間ほどの間隔で繰り返されるのです。
この強い波には、消化しきれなかったかすなどを、大腸の方へまとめて押し流す役割があると考えられています。そのため「消化管のハウスキーパー(お掃除係)」とも呼ばれます。1969年、アメリカのメイヨー・クリニックで、絶食させたイヌを調べていた研究者がこの動きを見つけ、食事をとると止まることも報告しました。
空っぽの消化管には、食べ物の代わりにガスや液体が多く残っています。そこを強い波が駆け抜けるので、音がよく響くと説明されています。
この強い収縮の引き金になっていると考えられているのが、小腸から分泌されるモチリンというホルモンです。群馬大学の伊藤漸らの研究グループは、イヌを使って空腹時の収縮とモチリンの関係を詳しく調べました。さらに、抗生物質のエリスロマイシンが、モチリンとよく似たはたらきで消化管を動かすことも突き止めています。この発見はのちに、北里研究所の大村智らとの共同研究で、抗菌作用をなくし、腸を動かす作用だけを残した化合物の開発へとつながりました。
「お腹がすいた」と「お腹が鳴る」は別のもの
お腹の動きと空腹感の関係を、自分の体で確かめようとした人たちもいます。1912年、アメリカの生理学者ウォルター・キャノンと、大学院生のウォッシュバーンです。ウォッシュバーンが細いゴム管の先につけた風船を飲み込み、胃の収縮を記録したところ、胃が強く縮むタイミングと、本人が空腹の痛みを感じるタイミングがよく一致したのです。
この実験から、空腹感は胃の収縮から生まれるという説が広まりました。ところが1931年、胃を手術ですべて取り除いた患者さんでも、たびたび空腹を感じることが報告されます。こうした研究から、空腹感は胃の動きだけで決まるわけではないと考えられるようになります。今では、血糖値や、さまざまなホルモンの情報を脳がまとめて判断していると考えられています。1999年には、国立循環器病センター研究所の児島将康、寒川賢治らが、胃から分泌されるホルモン「グレリン」を発見しました。のちに、空腹時に増えて食欲を高めるはたらきがあることもわかっています。
一方、MMCの波は、気分ではなく、前の食事からの時間を目安にやってきます。ですから、空腹を感じていなくても、食事から数時間たてばお腹は鳴りえます。炭酸飲料を飲んだあとや、早食いで空気をたくさん飲み込んだときに鳴りやすいのも、管の中のガスが増えるためです。お腹が鳴るのは、消化管が今日も働いているしるしといえそうです。