静電気はなぜパチッとする?
体にたまった電気が、金属に近づいた瞬間に空気を飛び越えて一気に流れるからです。
35,000V
冬の朝、玄関のドアノブに手を伸ばした瞬間、「パチッ」。思わず手を引っ込めてしまいます。セーターを脱ぐときにパチパチと音がしたり、暗い部屋なら小さな火花が見えたりすることもあります。
夏にはほとんど気にならないのに、冬になると急に増える静電気。その正体は、私たちの体にこっそりたまっていく電気です。
こすると電気が移る
身のまわりのものはすべて、プラスの電気とマイナスの電気を同じだけ持っていて、ふだんは差し引きゼロの状態です。ところが、2つの物がこすれ合ったり、くっついて離れたりすると、マイナスの電気をもつ電子の一部が、片方からもう片方へ移ります。電子を受け取った側はマイナスに、失った側はプラスに偏ります。これを摩擦帯電といいます。
どちらがプラスになりやすく、どちらがマイナスになりやすいかは、物の組み合わせで決まります。たとえば、人の髪の毛や羊毛はプラスに、ポリエステルや塩化ビニールなどはマイナスになりやすいことが知られています。
カーペットの上を歩いたり、椅子から立ち上がったり、重ね着した服をこすり合わせたりするたびに、私たちの体には少しずつ電気がたまっていきます。靴底やカーペットが電気を通しにくいと、その電気は逃げ場がなく、体にとどまり続けます。
指先から飛ぶ小さな雷
電気をためこんだまま、ドアノブのような金属に手を近づけると、どうなるでしょう。金属は電気をよく通すので、たまった電気は一気にそちらへ流れ込もうとします。指先と金属のあいだのわずかなすき間で、電気が空気を飛び越えて流れる。これが「パチッ」の正体で、仕組みとしては雷と同じ放電です。
このときの電圧は、驚くほど高くなります。空気が乾いた日にカーペットの上を歩くと、体の電圧は3万5000ボルトにも達することがあります。家庭のコンセントが100ボルトですから、その何百倍にもなる計算です。人がパチッと痛みを感じ始めるのは、およそ3000ボルトからといわれます。
それでも命に関わらないのは、流れる電気の量がごくわずかで、しかも100万分の1秒にも満たない一瞬で終わってしまうからです。水にたとえるなら、とても高いところから落ちてくる、ほんの1滴のようなもの。勢いはあっても、量が少ないのです。
冬に多いのは、空気が乾いているから
同じように歩いても、湿度によって体にたまる電圧は大きく変わります。先ほどのカーペットの例でも、湿度が10〜20%と低いときは3万5000ボルトに達するのに対し、65〜90%と高いときは1500ボルトほどにとどまるとされます。
湿った空気の中では、物の表面にごく薄い水の膜ができ、そこを伝って電気が少しずつ逃げていきます。空気が乾く冬は、この逃げ道がなくなるため、電気がどんどんたまってしまうのです。厚着をして服どうしがこすれやすいことも、冬の静電気を増やす一因です。
対策としては、部屋を加湿するほか、金属に触る前に壁や木の机に手をつけて電気を逃がす、鍵などの金属を握って先にドアノブに触れる、といった方法が知られています。セルフ式のガソリンスタンドに静電気を除去するパッドが置かれているのも、火花がガソリンの蒸気に引火するのを防ぐためです。
琥珀から始まった「電気」
静電気は、人類が最初に気づいた電気の現象でもあります。古代ギリシアでは、琥珀(こはく)を布などでこすると、羽毛や小さなわらくずを引きつけることが知られていました。紀元前600年ごろの哲学者タレスがこれを記録したと伝えられています。
ギリシア語で琥珀は「エーレクトロン」。1600年、イギリスの医師ウィリアム・ギルバートは、琥珀のようにこすると物を引きつける性質を、この言葉からとって名づけました。これが、英語の「エレクトリシティ(電気)」や「エレクトロン(電子)」の語源です。冬の「パチッ」は、2500年以上前から続く電気の歴史の、いちばん身近な入り口なのです。