彗星の尾はなぜ太陽と反対を向く?
太陽の光の圧力と、太陽から吹き出す「太陽風」に押し流されるからです。
夜空に長い尾を引いてかかる彗星は、昔から人々の心をざわつかせてきました。日本では「ほうき星」とも呼ばれ、英語の「コメット」は、ギリシア語で「長い髪をもつもの」という意味の言葉に由来します。
その姿を見ると、彗星が尾をなびかせながら、空を突き進んでいるように思えます。ところが、彗星の尾は進む方向とは関係なく、いつも太陽と反対の側に伸びています。太陽から遠ざかっていくときには、なんと尾を先頭にして進んでいくのです。
汚れた雪だるまが目を覚ます
彗星の本体である「核」は、氷とちりが固まった、直径数キロメートルから十数キロメートルほどの小さなかたまりです。アメリカの天文学者フレッド・ホイップルがこれを「汚れた雪だるま」にたとえたことは、よく知られています。
核は、太陽から遠く離れているあいだは凍りついたまま、暗い宇宙を静かに進んでいます。ところが太陽に近づいてくると、表面の氷が温められて気体になり、閉じ込められていたちりと一緒に噴き出します。こうして核のまわりには、「コマ」と呼ばれるぼんやりとした大気のようなものが広がります。コマは、大きなものでは地球の直径の15倍にもなるとされます。
このコマのガスやちりが、太陽の側から押し流されてできるのが、尾なのです。
青い尾と白い尾
じつは明るい彗星の多くには、性質の違う2本の尾があります。
ひとつは「イオンの尾(プラズマの尾)」です。太陽の紫外線を浴びたガスは、電気を帯びたイオンになります。一方、太陽からは「太陽風」と呼ばれる、電気を帯びた粒子の流れが、秒速数百キロメートルという猛スピードで吹き出しています。イオンは、この太陽風が運んでくる磁場に絡めとられて押し流されます。そのためイオンの尾は、太陽のほぼ真反対に、まっすぐ細く伸びます。一酸化炭素のイオンが放つ光によって、青っぽく見えるのが特徴です。
もうひとつは「ちりの尾」です。こちらは、細かなちりの粒が、太陽の光そのものに押されてできます。光には、ごくわずかながら、ものを押す力(放射圧)があるのです。ちりは太陽の光を反射して、白っぽく、あるいは黄色っぽく輝きます。ちりの尾はイオンの尾ほど勢いよく押し流されないため、彗星が進んできた道筋に取り残されるように、ゆるやかに曲がった幅の広い形になります。
尾の長さは、ときに途方もないものになります。1996年に地球に接近した百武彗星では、探査機ユリシーズが、核から約5億7000万キロメートルも離れた場所でその尾の中を通り抜けていたことが、のちの分析でわかりました。太陽と地球の距離の約3.8倍にあたります。
尾が教えてくれた「太陽の風」
彗星の尾が太陽と反対を向くことに気づいた人は、ずいぶん昔からいました。16世紀のドイツの天文学者ペトルス・アピアヌスは、1531年に現れた彗星、のちにハレー彗星と呼ばれることになる彗星を観察し、尾がいつも太陽と反対を向いていることを、図を添えて書き残しています。
ただ、なぜそうなるのかは長いあいだ謎でした。とくにイオンの尾が、光の圧力だけでは説明がつかないほど強く、まっすぐ押し流されていることが問題でした。1950年代のはじめ、ドイツの天文学者ルートヴィヒ・ビアマンはこの点に注目し、太陽からは粒子の流れが絶えず吹き出しているはずだと考えました。この予想はのちに「太陽風」として理論づけられ、1960年前後には探査機によって実際にとらえられます。
彗星の尾は、目に見えない太陽の風の向きを教えてくれる、宇宙の吹き流しだったのです。