海はなぜ青い?
水そのものが赤い光をわずかに吸収するため、深く入って戻ってくる光が青く見えるからです。
晴れた日の沖合で見る海は、吸い込まれそうなほど深い青をしています。でも、コップにくんだ海水は、どう見ても透明です。透明な水が、たくさん集まるとなぜ青くなるのでしょうか。
よく耳にするのは、「海は青い空を映しているから青い」という説明です。たしかに、曇りの日の海は灰色にくすんで見えます。ところがこの説明には、20世紀のはじめに、船旅の途中だった一人の物理学者が疑問を投げかけました。
地中海の上で考えた物理学者
1921年の秋、インドの物理学者チャンドラセカール・ヴェンカタ・ラマンは、イギリスからの帰りの船の上で、地中海の深い青を眺めていました。当時は、イギリスの物理学者レイリー卿が唱えた「海の青は空の光の反射による」という考えが広く受け入れられていました。
ラマンは、ポケットに入るほどの小さな分光器と、光の反射を取り除くことのできる偏光プリズムを持っていました。それを使って海面の照り返しを消して見ても、海はやはり青いままでした。もし海の青さが空の反射だけによるものなら、反射を取り除けば青も消えるはずです。ラマンは、海の色は水そのものの中で生まれていると考え、その観察を1921年11月に科学誌『ネイチャー』に発表しました。
このとき芽生えた水と光への関心は、のちに大きな発見へとつながります。1928年、ラマンは物質に当たった光の一部が、わずかに色を変えて散らばる現象を発見しました。今では「ラマン効果」と呼ばれるこの発見で、彼は1930年、アジアで初めてノーベル物理学賞を受賞しています。
水は「ほんのり青い」液体
今では、海が青く見えるおもな理由は、水そのものの性質にあることがわかっています。水は、赤い光をほんの少しだけ吸収するのです。
太陽の光には、赤から紫までの色が混ざっています。水の分子は、赤やだいだい色の光のエネルギーを、分子が振動するのにわずかずつ使ってしまいます。そのため、光が水の中を長く進むほど赤い光が減っていき、残った光は青っぽくなります。
ただし、その吸収はとても弱いものです。コップ一杯の水では色はわかりませんが、純粋な水でも、長さ1メートルを超えるような管に入れて端からのぞくと、ほんのりと水色に見えます。何十メートル、何百メートルと光が進む海では、この効果がはっきりと表れるのです。
海に差し込んだ太陽の光は、水の分子や細かな粒子にぶつかって、あちこちへ散らされます。その一部は、ふたたび海面から外へ出てきます。深いところを通って戻ってきた光ほど、赤い光が吸収されて青みが強くなっています。私たちが見ている海の青は、水の中をくぐり抜けて戻ってきた光の色なのです。光を散らすものがまったくなければ、深い海は青ではなく、真っ黒に見えるはずです。
海に潜ると、深くなるにつれて周囲がどんどん青一色になっていくのも同じ理由です。赤い光は水深数メートルのうちにかなり弱まり、深い海では赤いものが黒っぽく見えるようになります。深海にすむ生きものに赤い体のものが多いのは、赤い光の届かない暗がりでは、赤がかえって目立たない色になるためだと考えられています。
緑の海、茶色の海
とはいえ、世界中の海がいつも同じ青をしているわけではありません。岸に近い海や、栄養の豊かな海は、緑がかって見えることがよくあります。
その主役は、植物プランクトンです。植物プランクトンが光合成に使う葉緑素は、青い光と赤い光をよく吸収し、緑の光をあまり吸収しません。そのため、植物プランクトンがたくさんいる海は、緑っぽい色になります。川から流れ込んだ泥や、落ち葉などから溶け出した物質が多い海は、黄色や茶色を帯びます。
反対に、栄養が少なくプランクトンもまばらな外洋の海は、澄みきった深い青になります。南の島の海が抜けるように青いのは、ある意味では、生きものが少ない「海の砂漠」だからでもあるのです。科学者たちはこの性質を利用して、人工衛星で海の色を測り、世界の海のどこにどれだけ植物プランクトンがいるかを調べています。